オリンピックのための巨大放送局
パナソニック デジタル放送システム

カラフルなエントランスのIBC
シドニー大会、開会式。オーストラリアの歴史と多様性をテーマにした幻想的なアトラクション。先住民族出身のキャシー・フリーマンによる聖火台への点火。世界の融和を象徴する感動的なシーンの数々は、テレビの画面を通して世界220の国と地域、37億人の心を揺さぶった。
オリンピックは、世界で最も視聴者の多いスポーツイベントのひとつである。各国の放送局がオリンピックの放送権を得るには、地域の人々に対して無償の放送をおこなうことが前提条件になっている。オリンピック憲章にうたわれた“いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって、相互に理解しあう”オリンピック精神がここにも息づいている。
オリンピックの映像は、特定の国や選手に偏ることのない、真にグローバルなコンテンツとして作られる。驚きと感動に満ちた最高のスポーツ映像が生まれる場所は、連日熱戦が繰り広げられるオリンピックパークの外れにあった。国際放送センターIBC(International Broadcast Center)である。
ここには、オリンピックの公式映像を制作するホスト放送局“オリンピック放送機構”SOBO(Sydney Olympic Broadcasting Organisation)と、公式映像を自国向きの番組に加工し送信する世界各国の放送局が集まっている。IBCは、大会の期間中だけ稼働する世界最大の放送局なのだ。
メインスタジアム“スタジアム・オーストラリア”の西側、7万m2もの広大な敷地に建つIBCは、地元デパートの倉庫を1年間借り上げた、にわか作りの施設だ。しかし館内は、もともと倉庫であったことを感じさせない、明るい色彩にあふれている。延々と続く通路には「エミューパレード」「ネバーネバーハイウェイ」といったユーモラスな名前が掲げられ、各所に据えられたパナソニックのテレビモニターや大型プロジェクターが競技の映像を流し続ける。
仮設とはいえ、ここは最先端のデジタル放送設備をインフラとする、人口1万5000人のちょっとした規模の町と言っていい。各競技場からは、光ファイバーの大動脈がつながり、膨大なデジタルデータが行き来する。その機能は、堅牢なバックアップシステムにより、いかなる場合も止まることがない。パナソニックはIBCの基盤となる最も重要な部分、放送システムの構築を請け負った。

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松下電器産業株式会社 AVC社
主席技師 山本 耕司
「パナソニックがIBCの放送システムの元請けを行なうのは、96年のアトランタ大会、98年の長野大会に続いて3回目です。過去2回の実績をいかして、フルデジタルの放送システムを設計から構築、メンテナンスまで一貫して担当しました。3回目とはいえ、新しいフォーマットのデジタルシステムで、なにせ今までにない規模の巨大な設備です。現場での構築作業は5ヶ月しかない中で、最高の放送システムを構築できたと自負しています」
IBCの心臓部は、大会のすべての公式映像を制作するホスト放送局SOBOの放送設備だ。900台以上のデジタルカメラ、400台以上の記録用VTR、58のコントロールルーム、スタッフ3500人。ここで、SOBOスタッフにより撮影された300種目を越えるすべてのイベントがIOC(国際オリンピック委員会)の公式映像となっていく。
各国の放送局は、この公式映像の配信をうけて独自の番組を制作する。IBCに集まった放送局とラジオ局は合わせて190局。日本からは“ジャパン・コンソーシアム”としてNHKと民放各局の共同事業体が参加している。IBC内のジャパン・コンソーシアムの区画には、それぞれの放送局が独自に編集設備やスタジオを備えたブースを構える。こういった放送局のスタジオは、IBC内に1600を数えた。
1つの建物に1600ものスタジオを持つ放送局。世界の37億人に向けて一度に番組を配信する放送局。そんな桁外れなものはオリンピックのIBCをおいて他にはないはずだ。
IBCでは、ホスト放送局のスタッフ以外に、各国の放送局のスタッフ1万2000人が働く。世界の各地からやってきた放送局は、それぞれの国の時間帯に合わせて番組を制作し配信する。IBCのすべての機能は24時間ひとときも眠ることはない。3つのカフェやレストラン、金融機関、医療施設、郵便局、消防署、シャトルバス…。人々が生活するのに必要なこれらの施設もまた、休まず稼働し続ける。

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400台のモニターが並ぶSOBOのワールドブロードキャスター
「IBCは昼夜なく稼働しています。もちろん、膨大な放送機器も大会期間中はずっと酷使されているわけです。我々のメンテナンススタッフも3交代制で休みなくサポートを続けました。IBCや競技会場にあるSOBOの放送設備と、パナソニックの機材を使っている各国の放送局に対応するため、およそ100人のスタッフでなんとか期間中を乗り切りました」
シドニー大会の公式放送機器には、パナソニックの“DVC-PRO50”デジタルVTRが採用された。1/4インチサイズの小さなテープに、高画質のデジタル映像データを記録することができる、現場でも評価の高いフォーマットだ。
「DVC -PRO50のカメラレコーダーは軽量コンパクトで、機動性の高い取材を可能にしました。空中から、海上のボートから、バイクから、斬新なカメラアングルで臨場感のある映像づくりに活躍したんですが、そのぶんカメラは波をかぶったり、無茶な振動で揺さぶられたり、相当過酷な扱いを受けていたようですね(笑)」
IBC内のパナソニック・サポートセンターには、技術者が想定しないような様々なトラブルが持ち込まれた。しかし、各局のスタッフからの賞賛も数多く寄せられた。
DVC-PRO50は、撮影から編集加工、各国放送局へのデータ配信、番組の送信まで、すべてが伝送速度の速いデジタルデータで行なえる。
「作業が合理的にできる」「まったく画質が落ちない」「制作のスタイルが変わった」実際に完全なフルデジタルの制作をおこなってみて、その実力を評価する声が相次いだ。

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光ケーブルがスタジアムをつなぐ
また、シドニーのIBCに納入されたDVC-PRO50デジタルVTRは、世界の2大ビデオ方式を切り替えて使える特別仕様だったことも放送関係者を驚かせた。
オーストラリアやイギリスなどのヨーロッパに多い「PAL」とアメリカや日本の「NTSC」。実はこれまでのオリンピックは、原則的にこの2つの形式の地域で交互に開催されていた。DVC-PRO50は、世界を分け隔てていたビデオ形式の壁をも取りはらったのだった。
3500時間にもおよんだシドニー大会の公式映像の最後のシーンは、ハーバーブリッジを光でつつみこんだ盛大な花火だった。IBCの無数のモニターに映し出されるそのきらめきは、大会期間中ここで働いた人々の心に様々な苦労や思い出を走馬灯のように映し出した。
設計段階から2年もの歳月をかけて構築したIBCも、閉会直後には撤収作業が始まり、わずか2週間後には元の倉庫に戻る。それぞれの国へ帰っていく放送スタッフたち。パナソニックのスタッフは、去っていく人々と握手をかわし、笑顔で見送った。彼らの誰もがこう声をかけていった。
「次のオリンピックでまた会いましょう」
2008年10月1日、“松下グループ” は “パナソニックグループ” に変わりました。
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