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第3回 善尚さんは語る・その2

『映画史100年・沈黙の革命』-デジタルシネマカメラ VARICAM- バリカムイメージ1
女性ライター:ますだきこがVARICAM開発チームの軌跡を追った
バリカムイメージ2
第3回
善尚さんは語る・その2

光で描くフィルムの映像表現に惚れ込んでいる、と
言い切りながらも
・デジタル化の進行
・日本映画の経済効率
・地球環境的な視点
などから、将来的にはフィルムは消え去ると感じ、
デジタルビデオカメラ《バリカム》の開発にかかわり始めた
撮影監督、阪本善尚さん。
しかし、彼の求めたデジタルビデオカメラとは、
これまでのビデオカメラの常識を覆すものだったようです。
 
「僕が望むフィルムライクなデジタルビデオカメラには
  大きく3つの機能が必要でした。
  まず、ひとつめはラティチュード(再現域)、
  色の深さの表現です」
 
ラティチュード(再現域)?ですか
 
「フィルムとテレビ・ビデオとは、
  同じ被写体を撮影しても、それを再現した結果は
  かなり違うものなんです。
  光の捕らえ方、再現の仕方が全然違いますからね。
 
ビデオで撮った映像のイメージ フィルムで撮った映像のイメージ
ビデオで撮った映像のイメージ フィルムで撮った映像のイメージ

  フィルムは光を吸収して(感じて)色をつくり、
  全ての色を吸収すると真っ黒になります。
  これは、印刷と同じ減色法です。
  黒が基準だから、暗い部分での表現力が豊かなんですね。
  実は、この暗い部分での表現力が、人を感動させるんです。
  ボクシングのボディブローのように、
  知らないうちに効いてくる。
  日本流でいう“わび、さび”的な
  奥行きのある表現が可能なんですよ。
  これも100年かかって蓄積されたフィルム映画の遺伝子です」
 
うーん…。
フィルム表現が持っている深みが
ボディブローのように効く、というのは
映画好きのますだも納得、です。
 
「一方、テレビ・ビデオは、いわゆる加色法。
  ヴィヴィットな色の再現が可能で、
  クリアな色の表現力が信条なんです。
  ただし、映像にインパクトはあっても
  フィルム映像のように、想像力をかき立てる
  暗い部分の表現力、奥行感はありません。
  映画と違い、明るい場所で観られることが前提の
  テレビやビデオには、そんな微妙な表現力は
  必要ではなかったのです。
 
  専門的に言うなら、フィルムは階調のカーブの長さ
  (ガンマカーブ)が長く、明暗の再現幅が深い。
  しかし、テレビ・ビデオは階調のカーブの長さが短く
  再現幅が狭いということなんです」
 
■ビデオとフィルムのラティチュードの比較(イメージ図)
ガンマカーブ図

フィルムライクな映像をビデオカメラで再現するためには、
ISO640という感度の超微粒子フィルムを使用し撮影するのと
同じカーブを再現する必要があったと阪本さんは言います。
 
「次に僕が求めたのは、細かさの表現です。
  しかし、ご存知の通り、ビデオカメラもテレビも
  僕がとやかく言う前に、すでに高画質化を進めてますよね。
  クリアビジョンやデジタルテレビなどの放送では、
  走査線の数も標準の480から
  720と1080(この二つが世界基準)へ、
  さらにインターレス(i)からプログレッシブ(p)へと進化してます。
  《バリカム》は、720Pを選択しています。
  720でも劇場上映にはまったく問題ないので、
  コストパフォーマンスから、1080でなく720を選びました。
 
  僕がこだわったのは、レンズです。
  僕の理想とするフィルムライクな映像を実現するためには、
  やはり、35mmフィルムカメラで使っているレンズを
  装着できるようにして欲しかった。
  『突入せよ!「あさま山荘」事件』では
  ツァイス・レンズを使うことができ、
  「まろやかなシャープネス」を実現することができました。」
 
レンズの写真
HDアダプター(下)により、35mmフィルム
カメラ用レンズ(上)も使うことができる

「そしてもうひとつ、僕が求めた機能は、
  フィルムカメラならではの撮影手法である、
  “スピードの表現”ができること。
  早回しやスロー撮影ができることですね」
 
えっ、ビデオカメラでは無理だったんですか?
 
「フィルムカメラは、カメラのギア数を変化させることで
  早回しやスロー撮影をすることができるんです。
  撮る段階で、早回しやスロー用の撮り方をするために、
  その結果も美しい。
  でも、ビデオカメラの場合には、
  普通のスピードで撮ったものを、編集の段階で無理やり
  早回しやスローにするわけで、どうしても
  フィルムに比べるとギクシャクしたものになります」
 
なるほど、そういうことだったのですね。
 
「《バリカム》では、フレーム数(コマ数)を
1秒間に4コマから60コマまで、
撮影時に自由に設定できます。
バリアブル(変えられる)・フレームだから、
《バリカム》なんですね。」
 
バリアブル(変えられる)・フレーム

うわっ!!はじめて知りました!
そーいうことでしたか。
 
「『突入せよ!「あさま山荘」事件』のスロー、
  滑らかだったでしょ?」
 
ん…覚えていない。
(それほど自然だったということですね、はい。)
 
「僕がオーダーした以上3つの機能は、
  カメラの機構そのものの話なんですが…
  『突入せよ!「あさま山荘」事件』では、
  カメラの問題だけではなく、
  製作システム全体の開発が必要でした。
  特に、上映用フィルムのプリントに関しては、
  ラティチュードの設定とともに、
  映画屋である僕が
  責任を持って取り組まなければならない問題でした。
  これに関しては、東映化学デジタルテックの
  根岸氏の協力を得ることができ、
  『突入せよ!「あさま山荘」事件』でも、なんとか
  僕も納得のできるクオリティを持った
  上映用フィルムにプリントすることができました」
 
阪本監督

阪本さんが拘った三つの機能プラス、
上映用フィルムへのプリント化という
《バリカム》ならではのシステムが完成した、
ということですね。
 
「そう、カメラだけの問題ではなく、
  それも含めたシステムが出来あがったことで
  僕はフィルムとビデオの50年という時間差は
  かなり縮まったな、と思っています」
 
え、えぇ〜
阪本さんが《バリカム》開発チームと出会って約一年半。
たったこれだけの時間で
フィルムとビデオの時間差である50年を
縮めることができたというのですかぁ?
 
「そうですよ。
  《バリカム》開発チームの技術者や営業の
  悪ガキ連中いたからこそ、完成したんですよ。
  ほんとうに、よくやってくれたと思っています」
 
最高の誉め言葉を阪本さんに掛けていただいた
悪ガキ連中のみなさん!
“ストレスがたまらないデジタルビデオカメラを創りたい!”
という巨匠、阪本善尚さんのオーダーによく応え、
いえ、一緒に創ってきたみなさん!
 
本当のところ、このハードル、
高いものでしたか?
それとも、そんなの簡単よぉ!
まかしとけぇ!
という感じでしたか?
 
そのお話、
このあと聞きに伺います。
何卒よろしくお願いしま〜す。

 

→第1回 ビデオカメラで映画撮影
→第2回 善尚さんは語る・その1
→第3回 善尚さんは語る・その2
→第4回 S社の牙城に“突入せよ”
→第5回 バリカム番外編・その1
→第6回 バリカム番外編・その2

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