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第4話 「お城」をイバラの園に変えないために 〜システムキッチン

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小川さんの写真
「第1話 UDの舞台裏」 「第2話 照明器具/コンセント」 「第3話 バスルーム」 「第4話 キッチン」
文 / 小川みやこ

第4話  「お城」をイバラの園に変えないために〜システムキッチン

楽な姿勢で作業したい

「主婦のお城」とも言われるキッチン。料理好きな主婦にとっては、新しい創作物をどんどん生み出す場所。うん、確かに「お城」なんだろうな、そこが快適な場所ならば。

でも、扉を開けると鍋が飛び出してくるシンク下の収納スペースや、油汚れがこびりついたカウンターを前にすると、ため息のひとつもつきたくなる。釣果に恵まれてクーラーボックスいっぱいの小アジを調理したときは、腰がカチンコチンに硬直したっけ・・・。
お城は時としてイバラの園と化すこともあるのだ。

キッチンには料理をしたり、後片付けをしたり、収納したり・・・と、たくさんの機能がある。それだけに使いやすさはもちろん、姿勢のラクさや動きやすさ、安全性・・・等々、快適さのポイントもさまざま。ひと口にUDといっても、幅が広そうだ。

お話をうかがったのは、電情建デザイン開発センターでキッチンのデザインを担当している堀内さんと、システムキッチン事業部で事業や商品の企画をしている乾さん。

ほりうち ひでのりさんの写真 いぬい じゅんこさんの写真
左から順に、
  • 堀内 秀記(ほりうち ひでのり)さん
    松下電工株式会社 電情建デザイン開発センター
    住建デザイングループ 技師
    (システムキッチン商品デザイン企画担当)
  • 乾 潤子(いぬい じゅんこ)さん
    松下電工株式会社 住建分社 
    システムキッチン事業部
    事業・商品企画グループ 技師

堀内さんは言う。

「いまキッチンにおけるUDの切り口として重視しているのは、ラクな姿勢で使えることです。料理と言うのはひとつの作業ですから、これが立ち仕事のまま長引くとやっぱり疲れます。サヤエンドウの皮をむいたり、エビの背ワタをとったり・・・、時間のかかる作業をゆっくり座ってやりたいという声は、ずっと前からあったんです」

実はバリアフリーの時代から、「座る」キッチンは商品化されていた。

'97年に発売された車いす対応のキッチンは、カウンター下に車いすが入ってそのまま作業できる。専門家はもちろん車椅子ユーザーの意見も聞きながら開発した、バリアフリー仕様だ。

車椅子対応タイプのキッチンの写真
車椅子対応キッチン
「オーメイド エイジフリープラン」。
そののち、一般向けにはスツールに座って作業できるタイプが開発されたが、これをもう一歩進めて現在に至ったのが、UDという言葉を意識して企画された「座るワゴン」。
「座るワゴン」の商品写真
座るワゴンが搭載されたシステムキッチン「FiTi(フィットアイ)」は、UD認定商品。

膝があたるシンク前を凹ませて作業性を高めながら、座面の下を収納部分として使えるムダのない設計だ。しかも背面には扉面と同じ化粧材を使っているので、シンク下に収納すると「いす」としての存在を感じさせない。

でも、そんなに優雅に座っていて料理や水仕事ができるんだろうか。昔人間の母に言わせると、「包丁は立って使いなさい!」と怒られそうだ。

そこで、実際に座ってみることにした。

座っても立っても使いやすい

大阪は京橋駅近くにある「ナショナルセンター大阪」。キッチンや照明・お風呂・トイレなど家一軒分の最新設備がずらりと並んだ壮観なショウルームだ。豪華な設備にうっとり見とれながらも、目指すは「座るワゴン」が据えられたシステムキッチン「フィットアイ」。前まで行くと、上品そうな先客のご婦人がすでに「座って」おられた。

「座り心地はどうですか?」

思わず声をかけてしまった私に、ご婦人は座ったワゴンをゆっくり動かしながら、

「いいですよ。もっと軽く動いてしまうのかと思ったんだけど、意外に安定していて。安心して座っていられますよ」

と答えてくださった。

「あなたもどうぞ」と促されて、座ってみた。

確かにスムーズに動くが、どんどん転がっていく感じはしない。後ろに体重をかけてもバランスがくずれないのはお見事!コロコロ動くキャスター付きの事務用椅子とは違うようだ。

とは言え、決して重いわけではない。座面の下にモノがたっぷり収納されているわりには、シンク下からスッと引き出せる。ワゴンに座ったままシンクから離れてしまったときは、カウンター前についているサポートバーを持って引き寄せるようにすると、スイッと元の位置に戻る。

作業も軽快だ。ワゴンに座ったままでも、横の食器洗い乾燥機や引き出しに手が届く。気をよくして水道に手を伸ばしてみると・・・、ん?普通は根元にあるはずのレバーが、蛇口の先についている。座っていてもラクに手が届く位置だ。しかも指1本で押したり引いたりできる輪っか型。うーん、どこまでも考えてあるなぁ。

ワゴンを引き出す小川さんの写真 ワゴンに座って引き出しを開ける小川さんの写真 食洗機の引き出しを開ける小川さんの写真 蛇口レバーの写真

よくできた「座るワゴン」にひと通り感動したところで、

「座るワゴンのいちばんのポイントは、こけないようにすることでした」

と語ってくださった、商品企画グループの乾さんの話を思い出した。軽快に動けるのに軽すぎず、安定感があるのに重すぎない。ここにたどりつくまでには、さまざまな苦労もあったという。

「ワゴンが収納時にすっきり見えるよう背中に他の扉と同じ化粧材をつけているので、片側だけが重いんです。そこで反対側の金属フレームの中に鉄のおもりを入れてバランスをとりました。でも、このおもりが重過ぎたり入れる場所が悪かったりすると、シンク下からスムーズに引き出せなくなってしまって・・・」

「こけない」ことを大前提に、軽く引き出せて、なおかつ座ったときの安定感が求められる。どの部分にどれだけの荷重をかけるのか・・・。物理的な計算はもちろんだが、何人ものモニターに引っ張ったり座ったりしてもらいながら、「安心して座っていられますよ」と言われるワゴンができあがったのだ。

乾さん! そのご苦労は、ショウルームで出会ったご婦人の感想の中にも生きてましたよ。

ワゴンに腰かける小川さんの写真 ワゴンに座ったままサポートバーを持つ小川さんの写真

座るところまではいかなくても、立ったままでラクに作業できるキッチンもある。

キッチンの前面にウェーブをつけた「WAVEi(ウェーブアイ)」は、キッチンにもたれた時に自然に膝が入るスペースをつくったもの。通常は65cmのカウンターの奥行きを70cmにしてその差5cm分、膝が前に曲げられる。

「たった5cmの差でそんなに違うの?」とも思うが、違うのだコレが。再び乾さんのお話。

「150cmから170cmの主婦の方に『ウェーブアイ』で実際にお料理を作ってもらったんですけど、皆さんにラクだと言っていただけました。筋電図を使った解析でも、寄りかかることで足にかかる力や腰の負担が減ることが証明されました」。

ちなみにこのモニター体験会の日の献立は八宝菜。切ったり炒めたりと、作業量の多いメニューの選び方もなかなかです。

「ウェーブアイ」の写真 膝の入るカーブを確認する小川さんの写真 ウェーブに沿って立つ小川さんの写真

ところで先ほどの「座るワゴン」がついたキッチン「フィットアイ」にも、立ったままでラクに作業できる仕組みがある。

カウンター前につけられたサポートバーは、座った姿勢でワゴンを引き寄せるのに便利だが、立った姿勢でも威力を発揮。もたれかかったとき、「ウェーブアイ」と同じようにバーの出っ張り分だけ膝が前に曲げられるので疲れにくいのだ。実際に検証してみると、通常のキッチンで立って作業した場合の脚への負担を100%とした時、サポートバーにもたれて立った場合はその負担が93%に減少する。ちなみに座るワゴンを使う場合には、11%にまで減少するという結果が出ている。

たった5cmのウェーブ、たった1本のバーだが、長時間キッチンに立ったときに腰や足にくる苦痛を和らげてくれるのなら、その役割は大きい。主婦にとってうれしいUDであることは間違いない。

「フィットアイ」のサポートバー体験の写真 サポートバーを持ってワゴンから立ち上がる小川さんの写真
形のないUDもある

キッチンについての要望を調査したとき、作業性のラクさと並んでいつも上位に上がってくるのは、収納のしやすさ。シンク上の収納棚に手が届かない、奥行きが深くて奥のものが取り出しにくい・・・といった不満をどう解決していくか。これがキッチンの使いやすさを考える上では大きなテーマだった。

そうした問題のひとつの解決になったのは、スライド式の引き出し収納だ。今はこのスライド式が主流になり、奥のものに手が届きにくい扉式のものよりはずっと整理しやすくなっている。しかも重いものをたっぷり収納しても引き出しやすい「耐荷重レール」や、ポットや炊飯器などの家電が引き出して使える「家電収納」、かがまなくても足で押せば開く足元の引き出しなど、その機能もすみずみにまで工夫が加えられている。

スライド式引き出しの写真 足で押すと開く引き出しの写真

「高い収納棚に手が届かない」という声には、シンク上にある棚が目の高さにまで降ろせる「ソフトダウンウォール」が開発された。さらにボタンひとつで水切り棚が上がったり下がったりする「電動昇降水切り」もある。

「ウェーブアイ」ダウンウォールの写真
「ソフトダウンウォール」。下のレバーを持って引くと、2段の棚が軽々と目の前に降りてくる。身長155cmの私でも、中のものにラクラク手が届く。
「フィットアイ」電動昇降水切りの写真
「電動昇降水切り」。ボタンを押すと、棚の中身が目の高さあたりにまで下がってくる。リモコンを使えば手元で操作可能。

「ソフトダウンウォール」が開発されたのは、まだUDという言葉が広まる前。電動昇降のものも発売以来、すでに7〜8年がたっている。いまだに高い収納棚に手を伸ばすときには、踏み台代わりの椅子をもってくる私には夢のような機能だが、「高いところのものは棚を降ろして使う」のは、もう当たり前のようだ。

他にもお手入れのしやすさや環境への配慮、地震にそなえた耐震ロック機構など、キッチンの使いやすさは、既にすみずみまで研究されつくした感がある。それはUDという言葉が舞台に上がる前からずっと検討され、改良され続けてきた結果だ。

ではこれからのUDは、どこへ向かうのか。

堀内さんが、ひとつの指針をあげてくれた。

「『XIMO(エクシモ)』というオーダーメイドに近いシステムキッチンがあるんですが、それに親子カウンターを組み込んだプランがあります」

親子カウンターというのは、調理スペースの延長線上に一段低くしたテーブルスペースを設けたもの。堀内さんが言うのは、そこで食事をしたり、子どもがお絵かきや宿題ができるようにして、家族が積極的に集まってくるスペースを広げたプランだ。


「エクシモ」の親子型カウンターの写真

「今は個食が増えているようですが、それぞれに食事はするわけです。だから食事の時間はずれていても、その場所に家族を集めて絆を深めてもらえれば、食育にもつながるんじゃないかと。作業や収納のしやすさという形から入るUDもありますが、こんな風に行為から入って家族のコミュニケーションを深めるUDもあると思うんです」

「エクシモ」では、会員制のアフターサービスも充実している。

「設備を整えたはいいけれど、それがちゃんと使えているのか、本当にうまく収納できているのか。そのための情報提供も継続的に行っています。ハードはもちろんですが、ソフトも充実させていかなければ」

UDは本来、ユーザーの手に渡った後にこそ、その機能を発揮するものだ。しかし実際にはちょっとしたコツがわからずに、それがうまく機能していないことも多い。個人的な経験で言わせてもらえば携帯電話しかり、DVDプレーヤーもしかり。サポートセンターに電話して、「便利なはずの使い方」を何度も教えてもらったことがある。それは私の理解力のなさにモンダイがあるんだろうけれど、そういうユーザーも見捨てないでいてくれる企業はとても頼もしい。

「もちろんお客様のためではあるんですが、それは同時に、私たちの情報収集のためでもあるんです。どういうところが使えていないのか、どういうところに不便を感じておられるのか、次の商品企画の参考にもなりますから」

と微笑む堀内さん。

UDのヒントは、天からではなくユーザーから降ってくるのだ。そう思うと、自分の劣等生ぶりも役に立っているように思えて、ちょっとうれしい。

使いやすさも選びたい

ところで住宅建材の業界には、「誰にでも使いやすいものは、誰にでも使いにくい」という常識があるらしい。世代や家族構成、家の間取りも違うそれぞれの家族みんなに使いやすい究極のキッチンは存在しない、ということだ。

それならば「オーダーメイドが一番」ということになるが、そこにも問題はある。

「家族というのは変わります。結婚して子どもができて、親と同居して、子どもが独立して・・・。家族は増えたり減ったりしますし、その間に身体が不自由になることもあるかもしれません。すると使いやすさも変わっていきます。UDも時間軸を考える必要があると思います」

と言う堀内さん、ひとつのキッチンを例にあげた。

「ideco(アイデコ)」。据え付けのキッチンではなく、のちのち組み換え可能なアルミフレームでできたキッチンだ。フレームに部材を足していくシステムなので、簡単とは言えないまでも、暮らしの変化に合わせて違うパーツと入れ替えたり、いざとなれば引越し先に持っていったりもできる。

「アイデコ」の商品写真 「アイデコ」の商品写真
システムキッチン「ideco(アイデコ)」。
ベースは、シンプルなアルミのフレーム。収納ユニットを組み入れても、下を空けまま使ってもOK。必要なときに必要なアイテムを追加できるのが魅力のキッチンだ。

「そういう意味でこれは、時間軸のUDまで考えられるキッチンです」

現在の松下電工のラインナップの中では、アイデコはUD商品というカテゴリーには入っていない。しかし「座れるワゴン」のあるキッチンや、立ち仕事がラクなキッチン、オーダーメイド感覚のキッチン・・・等々に加えて、こうしたタイプのキッチンは選択肢の幅を広げてくれる。

すべての人にとっての使いやすいキッチンはないかもしれないが、自分にとって、家族にとっての究極のキッチンは見つかるかもしれない・・・。それを数あるシリーズから選べることもUDのひとつのような気がする。

年をとっても、身体が不自由でも、人より不器用でも、「自分でできる」という思いは生きる希望にもつながる。「あなたができないなら、私がやってあげる」というやさしさもうれしいけれど、「これを使えばあなたもできるよ」という言葉で背中を押してくれる商品や設備が増えれば、生活はもっと暮らしやすくなるはずだ。

そんな思いを抱いて今回、照明、お風呂、キッチン・・・と住宅設備のUDを見せてもらったのだが、旧タイプの設備しか知らない私には驚きの連続。思った以上にUDが進んでいたのはもちろんだが、「当たり前」の基準の高さにびっくりさせられた。

UDという言葉が登場するずっと前から住宅設備の使いやすさに取り組んできた松下電工の歴史を思うと当然なのかもしれないが、多くの「UD機能」(私にはそう見える)を指して、「これはもう当たり前のこと。改めて言うまでもありません」というクールなセリフは、ちょっとかっこよく聞こえた。

今は人気絶頂のUDという言葉も、やがては新鮮味を失い、舞台からおりる日がやってくるかもしれない。でもUDを意識して培われたものづくり精神は、「当たり前のこと」として、作り手側に受け継がれていってほしい。これからも「あなたもできるよ」といろんな人の背中を押し続けるために。そしてそれを使う側としては、どこが使いやすいとか、どこが便利なんて考えるまでもなく、暮らしていたいと思うのである。

(おわり)

(2008年10月1日、“松下電工株式会社”は、“パナソニック電工株式会社”に社名を変更いたしました。)

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