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第3話 床に段差がないのは当たり前? 〜バスルーム

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小川さんの写真
「第1話 UDの舞台裏」 「第2話 照明器具/コンセント」 「第3話 バスルーム」 「第4話 キッチン」
文 / 小川みやこ

第三話 床に段差がないのは当たり前?〜バスルーム

バリアフリーから始まった

お風呂は1日の疲れを癒してくれるリフレッシュスペース。と同時に、事故が起こりやすい場所でもある。 入浴中の死亡事故は年間1万人を超えるとか。交通事故の死亡者数を上回るというのにはびっくりだ。

狭い空間の中で、しかも無防備な姿で立ったり座ったりまたいだり・・・。すべって転ばないよう注意がいるし、高齢者にとっては寒い時期の急激な温度変化もこわい。家の中でこれほどリラックスできて、かつこれほど安全性が求められる場所は他にないかもしれない。そう考えると、風呂場や浴槽のUDは必須だと思えてくる。

入浴時の血圧の変化のグラフ

先にお会いしたユニバーサルデザイン共創開発グループの染矢さんも、

「お風呂のUDとして、床に段差がないことは当たり前」

と言っていた。でも、それってホント?
お風呂のUDってそんなに進んでいるの?

世間の流れにすっかり取り残された感のあるわが家のお風呂は、今もって「またぎにくい」「すべりやすい」「カビやすい」と三拍子?が揃っている。私が子供のころ住んでいた家のお風呂は、「きょうは寒いから入るのやめとく」と祖母がよく言っていた、ひんやり冷たい場所だった。お風呂のUDが必要なのはわかるけど、世間のお風呂が皆そんなに進んでいるなんて、どうも実感がわかない。

一体、いつ頃からお風呂にUDがもちこまれ、いつ頃から「段差がないのは当たり前」になったんだろう・・・?

まずはそのあたりを、お風呂の商品開発に関わる松下電工バス&ライフ株式会社の森内さんと、電情建デザイン開発センターの寺山さんに聞いてみた。

もりうち ふみおさんの写真 てらやま かずひろさんの写真
左から順に、
  • 森内文夫(もりうち ふみお)さん
    松下電工バス&ライフ株式会社 
    商品開発部 商品開発課 課長
  • 寺山和宏(てらやま かずひろ)さん
    松下電工株式会社
    電情建デザイン開発センター
    住建デザイングループ バス担当

「お風呂にUD的な思想がもちこまれたのは、約10年ほど前のバリアフリーの時代です。神戸の震災後に建てられた公団の復興住宅に、出入り口の段差を小さくし、浴槽のまたぎを低くしたバリアフリー型のユニットバスが求められたのが最初です」

と言うのは森内さん。ただし当時は、UDではなくバリアフリー。

「どうしてもわざとらしいデザインになっていました」

と苦笑する。

当時は、握りバーや介護用の椅子など、高齢者や障害者に配慮するバリアフリー製品の存在がひと目でわかるようにアピールされた。むしろ、わざとらしさが主流だったのだ。

バリアフリー時代のお風呂の写真

対してUDは、誰にとっても快適・安全で動きやすくなければならない。特にどこかを強調する必要はなく、流れは自然なデザインへと傾いていった。しかしそこには、「誰にでも」という対象の広さゆえの難しさがあった。

ひとつひとつのサイズに意味がある

「例えば浴槽のサイズひとつ決めるにしても、誰にとっても快適な寸法というのは難しいんです」

と言うのは、商品の企画段階から関わっている寺山さんだ。

人体計測データ(子どもから70歳代までの男女のサイズが網羅されているデータ)によると、少し前に20代男性の身長がぐんと高くなり、60代以上の女性との差が広がったという。身長170cm以上の男性と140cm台の女性・・・どちらにも満足してもらえるサイズなんてあるんだろうか?

「浴槽のサイズは『小は大をかねる』んです。安全第一ですから、小さい人が溺れることのないサイズを優先させて、身長175cmの人は膝が曲がるけどゴメンね、と。ただし長さは伸ばせないけど、その分幅を広げるデザインで狭さを感じさせないようにする。そういう工夫を加えていきました」

もりうちさんの写真
もりうちさん、てらやまさんの写真
てらやまさんの写真

お風呂のUDは、ミリ単位の葛藤を経て生まれるものが多いのだと言う。

例えば洗い場の床から浴槽のふちまでの高さは、またぎやすい低さと子どもが落ちにくい高さ、なおかつ浴槽のふちに腰掛けたときに膝に負担がかからない適度な高さが求められる。

まるで複雑なパズルみたいだが、これは国のバリアフリー基準の中で400mmから450mmというひとつの答えが出されており、現在の松下電工の商品は、すべてこの範囲内に収められている。

入浴できる設備を整えた実験用のバスユニットで、実物を色々見せていただきながらお話をうかがった。ここは、社員はもちろん高齢者も含めたモニターに、実際に身体を洗ったり浴槽につかってもらったりして、使いやすさを確認している場所だ。

浴槽のフチは広い方が優雅に見えるが、安全のためには片手で握りやすいサイズがベター。ただし角の部分は、足腰の弱い人がいったん腰かけて、お尻を回転させながら浴槽の中に入れる広さを確保している。

またシンプルに見える1本の握りバーひとつとっても、サイズをめぐる葛藤はつきない。

バーの太さを決めるのに、いろんな太さの丸棒をつくって、たくさんのモニターに握ってもらった。手の大きな人も小さな人も無理なく握れるのはどの範囲なのか。同じ太さでも、垂直につけた場合と水平につけた場合での握りやすさはどうだろう。

壁とバーとの間隔も、狭すぎると指が挟まってしまうし、広すぎると腕が入り込んでしまうかもしれない。そんなたくさんの仮説と実験を経て、やっと1本の握りバーができあがるのだ。

森内さんは言う。

「うちの商品で、何気なく作った寸法というのはありえません。ひとつひとつのサイズが、明確な意味を持つことが重要なんです」と。

浴槽の握りバーの写真 握りバーを持つ小川さんの写真 浴槽のフチを握る小川さんの写真 浴槽の角部分の写真
段差ゼロをめざす戦いが始まった

UDという視点で見たとき、サイズはひとつの重要なポイント。その決め方も、ひとすじ縄ではいかない。

でもそんな中で、単純に「ゼロに近い方がいい」と思えるものもある。出入り口の段差だ。つまずくことがないように、車椅子でもスムーズに通れるように、段差は低い方がいい。ただひとつ、お風呂の水が外へ流れ出ていくのをせき止めることさえできれば。

例えば体重70kgの人が満杯のお湯にザブンと飛び込んだ場合、40〜50リットルの水が勢いよく流れ出て、洗い場ドア部分の水位は約60mm上がる。これを一滴たりとも外へ逃がすことなく、ドアでくい止めるのだ。

それだけではない。浴槽からあふれ出た水の流れとは別に、シャワーなどで上から落ちてくる水もある。流れや圧力のかかり方の違う2つの水を両方ともくい止めて、うまく逃がさなければならない。

挑戦は、バリアフリーの時代に始まった。バリアフリー基準の「出入り口の段差20mm以下」を目指して、何度も実験が繰り返された。

「これは計算でできるものではないんですよ。浴槽に満杯の水をはって、今ならポリタンクやマネキンを沈めるんですが、当時は実際に人が飛び込んだりもしてね、水位が上がった状態をつくりながら、ドアレールにつけるパッキンの形状を作り込んでいきました。どのくらい密着させて、どのくらいすき間を開けるのか。試作ができてからも何百回も実験しました」

かく言う森内さん自らも、かつては冬場でもウェットスーツを着て、満水の浴槽の中へ飛び込んだメンバーのひとりだ。納品先の公団住宅の担当者の前でも、派手に飛び込んで見せてアピールしたという。

「何度もやってるうちに、飛び込み方もうまくなるんですよ。ザブーンとハデにとび込んだように見せておきながら、あまりたくさんの水があふれないようにするとか。もちろん、基準はしっかりクリア できているんですけどね。」

森内さんの飛び込み方もうまくなった頃、「出入り口の段差20mm以下」のバリアフリー型ユニットバスは完成した。そして今、UDの時代を迎えて、段差は限りなくフラットに近い3mmにまで縮まっている。

小川さんと寺山さんの写真
ドアレールのパッキンをさわる小川さんの写真
小川さんと寺山さんの写真
すべらない・汚れない・乾きやすい床をつくる

めるためのポイントは、サイズだけではない。材質、特に床については、「すべりにくい」「汚れにくい」「乾きやすい」という3つを求めて、検討が重ねられた。

お風呂の床といえば、ひと昔前はタイルの印象が強かったが、今は強化プラスチックに凹凸を成型加工したものが主流。ポイントは材質そのものというより凹凸の大きさや高さ、実に顕微鏡レベルという細かい突起にあるらしい。

床面の凹凸が水の表面張力を壊して床を乾きやすくし、足の裏をすべりにくくするエッジの役目を果たす。またタイルのような目地がないので、汚れもたまりにくいのだ。

床のパターンが決められるまでには、突起の高さを変え、間隔を変え、樹脂の配合を変えて、何百個ものサンプルがつくられた。それぞれに水をかけたり乾かしたりしながら、すべりにくさや乾きやすさを検討するのだ。

汚れにくさを検討するために、「お風呂の模擬汚れ」なるものも作られた。まずは人体から出る脂肪分や洗剤の成分を分析するところから始まった模擬汚れは、約1年かけて完成。これを床に付着させては乾かし、中性洗剤でこすって、汚れがどれだけ落ちやすいかを観察するのだ。

汚れを付着させる床の方も、家庭での使われ方に近づけるために何年も使い込んだ状態に磨耗させなければならない。スポンジでのお風呂掃除を前提に、10年間でのべ何万回、床面がこすられることになるのかを仮定し、スポンジをつけたマシンでその回数分こすった状態を再現し、そこに1年間かけてつくった「汚れ」を付着させたという。・・・気の遠くなるような話だ。

こうしてできたのが、写真の床。ミクロン単位の突起を組み合わせて成型した、松下電工独自の強化プラスチック製だ。

洗い場の床をさわる小川さんの写真
洗い場の床の写真
洗い場の床をさわる小川さんの写真

写真ではわかりにくいかもしれないが、複雑な凹凸模様があってザラッとした手ざわり。ストッキングをはいたすべりやすい状態でツーッとすり足をしてみたが、すべりそうな感じはしない。タイルの目地汚れを見慣れている目には、目地がないのも新鮮だ。

浴槽の中に入ってみると、浴槽の床の真ん中あたりにも、洗い場と同じ凹凸のパターンがつけられていた。目立たないところで、浴槽の中でも足をすべらせないようにとの心づかいがうれしかった。

また浴室の天井を見上げると、エアコンのようなものがついていた。あれは・・・?

「暖房換気乾燥機です。冬の一番風呂はひんやりするでしょう?でもあれで暖房しておけば温かく入っていただけます。ヒートショックも防げますしね」

と寺山さん。

ヒートショックというのは、急激な温度変化で血圧が急降下したり、脈拍が早くなったりすること。冒頭で述べた入浴中の事故にも多く含まれる。

暖かさの工夫はこれだけではない。天井や床、壁が断熱材で包まれているので、いったん温まった浴室は、時間がたっても冷めにくいのだという。

今は亡き祖母が「きょうは寒いから入らない」と言っていた実家のお風呂にもこうした工夫があったら、毎日でもお風呂に入れたのになぁ。そう思うと少し切なくなった。

浴槽のすべりどめに触れている写真
小川さんと寺山さんの写真
浴室の天井の写真
もっと気持ちよく進化する

動きやすさや安全性を求めて、サイズや床のパターンを工夫したお風呂のUDを見てきた。旧タイプのものしか知らない私にはもうこれだけで充分なのだが、日々新しい商品の開発に明け暮れている寺山さんは、「こうした工夫はもう当たり前。最低条件です」と言う。最近は入浴スタイルも変わってきて、新しい要望に応える形でのUDも進んでいるというのだ。

まずは、半身浴ステップ付きの浴槽。

腰から下だけを暖めてゆっくりつかる半身浴は、リラックス効果や心臓への負担の少なさから注目されるようになった。そこで開発されたのが、この半身浴ステップだ。

ここに腰かけると湯量を減らさずに半身浴ができるだけでなく、幼児を座らせておくのにも便利。浴槽の奥方向についているので、親が洗い場で洗っているときに子どもと目を合わせることもできる。

もちろん普通に入浴するときはこのステップを避けて足を伸ばせるという、考え抜かれた設計だ。

半身浴ステップに腰かける小川さんの写真 親子でお風呂に入っている写真 お風呂で遊ぶ男の子の写真 浴槽内に座り足を伸ばす小川さんの写真

また、「ゲンキ浴(よく)シャワー」は、高齢者用に開発された「座(ざ)シャワー」と同じく、椅子に座ったままで全身にシャワーを浴びることができ、入浴と同等の効果が得られる・・・という画期的商品だ。

システムバスの中に設置しても違和感がないように、普段はシャワー部分を収納。いすの部分もミラー付き洗面カウンターとして使えるデザインにした。またミスト浴やパルス(うたせ湯)の機能もつけて、「浴槽に入らず、シャワーだけでリラックスしたい」という若い層の心もつかんだ。

ゲンキ浴シャワーと小川さんの写真

お風呂の段差は「ある」のが当たり前。浴槽の床ですべりそうになっても「気をつけよう」と自分に言い聞かせ、タイルの目地にこびりついたカビを見て見ぬふりをしながら、ここ十数年を暮らしてきた。

でもその間に、お風呂のUDは画期的に進歩していた。まるで浦島太郎になったような気分で取材を終えたとき、「お風呂、入っていかれます?」と寺山さんに声をかけられた。

あー。入ってみたい、半身浴。浴びてみたい、「ゲンキ浴シャワー」。

とはいえ取材のスケジュールはまだまだつづく・・・。UD機能満載のお風呂に後ろ髪をひかれながら、次はキッチンへと続きます。


(2008年10月1日、“松下電工株式会社”は、“パナソニック電工株式会社”に社名を変更いたしました。)

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