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第2話 「真空管、やらないんですか?」
 
 
「何で、いつもこうなるんやろ?」 若き企画マン、野中は今日も悩んでいた。彼の所属する部署はカーマルチメディアカンパニー カービジネスユニット グローバル商品企画チーム。部署の名称も長いが、ひとつの製品をカタチにするまでの道のりは、もっともっと長い。いくつものラインナップを同時に手がけ、市場の背景や技術の動向を知り、そこに如何にして新味を盛り込むのか? 暗中模索の振り出しから、製品の最終仕上げまで。いくつも試作がくり返される外観パネルの山に埋もれて、最適の解答を探りながら野中は悩む。売れ筋のカーオーディオは、競合する他社商品にスペックが劣っていては勝負にならない。いわゆる○×チャートを前にして、決して×の数が少なくならないように誘導しなければならないのだ。そして何よりも重要なのは価格。いくらスペックに優れていても、値段が高ければユーザーは振り向いてくれない。ほぼ同じ仕様で価格に差が出せなければ、どの会社の製品であろうと似たり寄ったりの袋小路に迷い込んでしまう場合が多い。だから野中の悩みはつきないのだ。
 
 
最後の砦は、コスメティックと呼ばれる部分。店頭で強烈にアピールする物欲のフェロモンを、いかに外観で発散させるのか? いきおい化粧は派手にならざるを得ないし、他社だって同じくらい努力している。どこまで派手にすれば勝負に勝てるのか? ふと冷静になって他社のラインナップカタログと、自社のそれとを見比べてみる。極論すればブランドのバッチがなければ見分けが付かないくらい似ている気もする。個人的には派手なイルミネーションよりもブラック仕上げなんかが渋くてカッコイイと思うのだが、やはり数が売れる商品となると皆と同じスタイルになってしまう・・・。何かまったく新しいコスメティックを見つけたいと思いながら、ふと目に留まった雑誌のページ。そこには彼が見たこともないオーディオアンプが紹介されていた。
 
 
ロシア製の真空管を使ったアンプのキット。ピンときたら即実行を信条とする野中は、すぐさま東急ハンズへ出向いてみた。どんなアイテムであろうと、新商品のヒントになりそうなら手に取ってみる。勝算がありそうなら購入もする。もちろん、なかなかカタチになりづらい場合が多いし、未だ製品への定着が霧の中になっているベンツのカタチをしたビデオCDプレーヤーとか、他人の目から見たら何やら意味不明な買い物も、立派な仕事の一部なのだ。今日、こうして買いに来たアンプの天面にぼんやりと点灯するガラスの真空管。まじまじと見つめながら、これがカーオーディオに載った姿を想像すると恰好いい。他社の製品と○×の差ではなく、あきらかに違うコスメティックで勝負に出られると直感した野中は、商品企画の会議で真空管アンプの現物を持ち込んでプレゼンテーションを試みた。
 
 
「こんなの、できるわけないじゃない。」 一瞬の沈黙のあと、企画会議に出席したメンバーのリアクションは最悪だった。もちろん、真空管は数あるアイデアのひとつにすぎなかったのだが、一蹴されて引き下がるのは企画マンとしては失格だと考える野中は、その後も何度となくこのプランを提案する。その心の支えになっていたのは、最初の会議で消極的ながらも全否定ではない反応を示してくれた向村の「まあ、そのうちやろう。」という一言だった。
 
 
「真空管、やらないんですか?」 何度も企画会議に提案し、顔を合わせるたびに問いかけてくる野中。車載用のテレビ設計から、カーオーディオへと担当の変わった向村は、そろそろ時期が来ていると感じていた。今のカーオーディオは、いわばミニコンポ的な捉えられ方をされている商品で、その音がいいから売れるわけでは決してない。いわばファーストフードみたいな手軽さと安さが購入の動機付けになっているのだ。見た目にキレイで、ファッション性を追い求める商品戦略の延長線上に、目新しいデバイスとして真空管の提案を続ける野中。あえてアナログメーターを採用したモデルを提案し、商品として定着させる推進力になったのも彼だ。若くて新しモノ好きの感性に真空管は引っかかってきている。しかし、その核となる真空管を数万本という単位で用意できるのだろうか? あの懐かしく温かい表情を持ったデバイスに対して、向村には特別な思い入れと、あまり他人には話すことのなかった思い出があったのだ。
 
真空管、音の記憶。 第3話 電気少年の宝箱へ
真空管
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