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RP-SPF01の2台1組の写真

デザイナーを魅了した素材と職人魂 〜コンパクトスピーカーRP-SPF01〜

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スピーカーが組み込まれる前の外装ケース内側

音も、姿も、美しく

アルミという高価な素材を、高度な職人の技とともにシンプルな工法で加工する。しかも製造コストは低く抑えることができる。インパクト工法は実に日本的で面白い」と吉山さん。

この工法によって可能になった、底部以外どこにも継ぎ目のない一体型の総アルミエンクロージャー(外箱)は、音づくりにも大いに役立っている。継ぎ目がないということは、素材の美しさを主張し、経年変化が少なく耐久性を向上させるとともに、余計な共振を抑え、音のブレが激減する。コード端子類はボディ底部に配置され、スイッチ類は電源のオン/オフを兼ねたボリュームのつまみが一つだけ。AC駆動でデジタルアンプ内蔵、入力はステレオミニ1系統のみと機能も極めてシンプル。

「極力余計な“ノイズ”をカットし、静かな存在感を目指した」という吉山さんの言葉どおりのデザインだ。また、バスレフポートを背面ではなく底部に設置し、床からスピーカーが浮いているフローティング構造を採用したのも、すべては音のクオリティを極限まで追求した結果。音質へのこだわりがこのデザインを誕生させたのだ。

製品の仕上がりを確認する、ふじかわ専務(右)と、やまね工場長(左)。
藤川金属工業 藤川専務(右)と山根工場長(左)。
吉山さんのデザインを熱意と技術でサポートする、現代の匠たちだ。

藤川金属工業ウェブサイト
http://www.fujikawa-metal.com/

職人たちが燃えた!

そもそもインパクト工法は、食料品や化粧品などの容器として開発されたもので、「薄肉深絞り」を特徴とする技術だ。これを、しっかりした音を生み出すべく6ミリもの厚みで成型するのは容易なことではない。日本国内で唯一この技術を持つ藤川金属工業に何度も足を運んだ吉山さん。専務の藤川浩史さんは、吉山さんのリクエストをすべて実現してくれたうえ、常に改良を重ねデザイナーが期待する以上のケアをしてくれたそうだ。

「今から思うとずいぶん無茶なことをリクエストしていたと思いますね。藤川金属工業の皆さんの熱意こそ、日本が誇るべき“モノづくりのスピリット”だと思います」。吉山さんが同社の姿勢を絶賛すると、工場長の山根さんからは次のような言葉が返ってきた。
「要求されるハードルが高ければ高いほど、我々は“やってやろうじゃないか”と意気込みました。この工法は数値の計算も大切ですが、それよりも勘と経験のほうが重要です。吉山さんのリクエストは未経験の領域でしたが、僕の勘と経験を駆使すればクリアできるのではないかと判断していました」

■インパクトの瞬間、塊だったアルミが四角い筒状に立ち上がる。
(製品は工業用監視カメラの躯体)
インパクト工法でケースが立ち上る瞬間

ミクロン単位まで匠の技で加工される

失われつつある技を活かして

インパクト工法で生まれたアルミの外装は、デザイナーである吉山さんのイメージどおりに製品として美しく仕上げ加工される必要がある。仕上げ加工は松下電器の岡山工場で行われる。ビデオ機器の歴史を作ってきたこの工場には、高度な技能者集団が存在する。その一人、商品技術グループ主任技師、山本真義さんは「モノづくり」に賭ける熱い思いをこう語る。
「ここでは、パーツから完成品までを自社ですべて作っています。そういう工場は今ではほとんどないと思います。端的な例はかつてのビデオテープレコーダーです。この工場が創設された34年前、ヘッドシリンダーの製造技術をもつ企業や工場はなかった。ミクロ単位の微細な切削技術が求められるからです。そこで我々はシリンダー作りの体制や工作機械を一から生み出した。以来、自社ですべての作業を行うのが伝統になっています」

ヘッドシリンダーづくりで培われたアルミ微細切削の職人技がスピーカーの仕上げに応用できるに違いない。そう考えた吉山さんが図面を渡してから製品の形が出来上がるまで3ヵ月。20個以上の試作品を経て、ようやく2007年3月に「RP-SPF01」は完成した。

アルミボディ切削行程の説明写真
アルミボディの切削行程で、設計図通りにアールをつくりだしてゆく。
スピーカーボディをチェックするおおむろさん、と、よしやまさん
スピーカーボディをチェックする
岡山工場 大室さん(左)と吉山さん。

山本さんはその日を振り返ってこう語る。

「吉山さんは何度もこちらに足を運び細かい要望を伝えてくれました。ここまで熱心に製作プロセスに関わってくれるデザイナーを吉山さん以外に知りません。だから私たちとの信頼関係も深まっていきましたし、提案も出しやすかったですね」

吉山さんもその経過をフォローする。「図面には表しようのない繊細な調整が必要でした。たとえばスピーカーの面によっては質感が違ったり、見る角度によって加工段差が浮かび上がったりする部分がある。ところが、機械で測定してもほんの数ミクロンしか差がない…。それを調整できるのは、やはり人の目と手。岡山工場の熟練した職人技が不可欠でした」

吉山さんをはじめこのプロジェクトに関わっているすべての人たちは、「日本のモノづくり」に誇りを持っている。その誇りを形にしたものが「RP-SPF01」だ。このプロダクトはまた、「パナソニックの音づくり」の原点でもある。

大切そうに手に持たれるRP-SPF01

日本のモノづくりの未来を見た

日々の暮らしには、静かな場所でじっくりと音楽を聴くシーンが確実にあるはず。その上質な時間にふさわしいスピーカーを目指しました。強烈な主張がなくてもモノづくりの熱意が伝わるような製品を作りたい。手に入れた時、長く置いておきたいと思わせるような製品を…」と吉山さん。総アルミのボディを渋く輝かせて、「RP-SPF01」は店頭で明らかに異彩を放っている。「外装から音をデザインする」吉山さんの意図はみごとに当たった。

昨今、日本の製造業は全盛期を過ぎ、その王座を、中国をはじめとするアジア諸国に譲ってしまったといわれる。それらの国は「低コスト」でプロダクトを市場に出せるからだ。しかも日本では団塊世代の退場で技術継承が危機にさらされている。私自身もそうした危機感を強く抱く者であるが、吉山さんと彼に関わる人々のモノづくりの現場に触れて、「日本もまだまだ捨てたもんじゃない」と胸をなでおろした。
繊細な技術、丁寧な手作業、こだわり、熱意…。それらが結集する日本のモノづくり。吉山さんはその象徴的存在であろう。「時間もお金もかけて作られた上質なもの」は、その存在感において「薄利多売」のプロダクトを圧倒するはずである。「高いクオリティは永遠に」、なのである。 (おわり)

取材・文●NILE’S NILE編集長代理 松本光代

RP-SPF01製品情報
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