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RP-SPF01の2台1組の写真

デザイナーを魅了した素材と職人魂 〜コンパクトスピーカーRP-SPF01〜

取材・文●松本光代 富裕層向け会員誌「NILE’S NILE」編集長代理。世界中の一流製品(クルマ、時計、バッグ…)それぞれのブランドが持つモノづくりの精神や伝統を日々、取材・記事化している。
RP-SPF01製品情報
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スピーカーを見つめる、よしやまさん

デザイナーらしからぬデザイナー

今年の6月だったろうか。「とても魅力的な製品を生み出した、パナソニックの熱いデザイナーがいるんだけれど、会ってみない?」と知人に紹介され、吉山豪さんとお会いした。意思の強さを感じさせる眼差しで静かに自己紹介を始めた吉山さん。しかし、自らがデザインした「RP-SPF01」というスピーカーの説明になると、熱を帯びた口調で語り出した。モノづくりにこだわる彼の姿勢に「忘れていた職人魂」を見て感動した。

さらに驚いたのが、彼の仕事の内容が「デザイナー」の枠を逸脱していたことだ。プロダクトデザイナーとは、与えられた商品企画を受けて、デザインルームで、より多くの人々を魅了する美しい外観をイメージしスケッチしている人、と私は思っていた。ところが吉山さんは、製品の外装の素材選びはもちろん、外装の製造法の研究・開発にも積極的に取り組み、さらに工場に足しげく通い、仕上げに対して細かい注文を出しているという。パナソニックのデザイナーは皆、ここまでモノづくりの現場に首を突っ込むのだろうか?

本体を浮かしたフローティング構造

それから2カ月、8月の猛暑真っ盛りの日、
大阪を訪れた。吉山さんとの再会が「モノづくりの現場」取材とあって、再会の喜びは一層大きかった。

私はすでに6月に、「RP-SPF01」の音を聞いていたが、この日初体験する取材スタッフのために、「とにかく音を聞いてもらいましょう」と吉山さんからの提案を受け、改めてその小さな躯体から発せられる音に耳を傾けた。何度聞いても、自然な音質は耳にやさしく、音の立体感も抜群だ。

ボリュームを絞ってみても、サウンドの臨場感や奥行きを損なうことなく、繊細な音をもしっかり再現する。高さ160ミリ、幅62ミリ、奥行き96ミリの総アルミ、シームレスボディをもつ小さな箱のどこに、どんな仕掛けが施されているのだろうか。このスピーカーが生まれるまでの過程を、改めて聞いた。

インパクト工法でつくられた、SDカードケース
吉山さんがデザインしたSDメモリーカードケースRP-SB。アルミの「インパクト工法」との出会いだった。

「インパクト工法」との出会い

2005年の春、吉山さんは、スピーカーやヘッドフォンなどをデザインするアクセサリー部門の担当になった。
当時、スピーカー市場の主流は安価なパソコンスピーカーであり、それ以外にはごく一部のオーディオファンに的を絞った高級品しかなく、市場は二分化されていた。「“間”に入り込める商品が必ずあるはずだ。スピーカーに、5000円ほどで買えるお手軽なものと、何十万もする高級品しかない市場はおかしい」。吉山さんはそう考えていた。

一方で吉山さんは、アクセサリー商品である「SDカードケース」のデザインで、ある素材と製造技術に出会う。アルミの「インパクト工法」である。これは、常温のアルミの塊に瞬間的に衝撃(インパクト)を与えて成型するという極めてユニークな技術。金型(下)の浅い凹みに材料であるアルミの塊を入れ、360トンもの圧力をかけ、棒状の金型(上)で突く。すると不思議なことに、行き場を失ったアルミの塊は、一瞬、流動体になったように金型の形のまま上方へと伸びていく。この工法に、吉山さんは魅了された。「インパクト工法」でスピーカーを作れば、これまでにないデザインと音が生まれるのではないか、と考えたのである。

インパクト工法のしくみ

名機と言われた、小型スピーカー、テクニクス SB-F01
テクニクス SB-F01(1980年)
カセットテープサイズながら、バランスのとれた音で 深夜の小音量リスニング族に、もてはやされた。

デザイン面では、アルミの無垢の質感が独特の高級感をかもし出すことに注目した。「家電量販店の棚に現れては消えていく、ただ“消費”されるだけの商品ではないもの、新たな価値の創造につながるものにふさわしい素材は何か」。新たな素材に飢えていた吉山さんにとって、インパクト工法から生まれたアルミの質感は、ひときわ輝いて見えたという。

さらに、音の面でもアルミには可能性が感じられた。吉山さんの念頭にあったのは、松下電器のオーディオブランド「テクニクス」の音づくりである。
入社時に感銘を受けたその音づくりへのこだわりが忘れられなかったのだ。なかでも、1980年に登場したアルミ躯体のコンパクトスピーカー、SB-F01は、小さな音量で聞いても豊かな音を再生する点で一世を風靡した。「名機・SB-F01の21世紀版を生み出せるのではないか」。そう吉山さんは考えたのだ。インパクト工法を生かしたスピーカー開発の模索が始まった。

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