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※過去に掲載された記事になります。内容は公開時のものであり、最新の情報とは異なる場合がございます。

くらしを支える道具の未来 〜パナソニックのロボット技術〜
  • Introduction
  • 1:ロボティックベッド
  • 2:薬剤業務支援ロボット
  • 3:開発者の夢

2009年11月17日公開

第三話 ロボット開発者の夢は尽きず

ライター:デイビー日高

ちわーす!サイエンス&テクノロジー大好きライターのデイビー日高です。早いもので、この連載も今回が最終回。パナソニックのロボット開発への意気込みを知れば知るほど、個人的にはもっともっと連載を続けたい気持ちでいっぱいなんですけどね〜。せっかくですから今回は、ロボット事業の今後のビジョンを再確認しつつ、これまで登場いただいた開発者の皆さんに将来の夢・目標などを伺ってみましょう。そしていつか、くらしの場で大いに役立ってくれそうな未来のアシストロボット、そのスタディモデルたちについても、どーんとご紹介したいと思います。


再びやって来ましたロボットオープンラボ。いつ来てもドキドキします!

アシストロボットの源流、ここにあり。過去の試作機たちを一挙公開

未来の話を始める前に、少し過去のお話を。パナソニックがこれまで開発してきたロボットたちを振り返ってみましょう。

中には、まだロボット事業推進センターの設立以前に、パナソニックの各部門で試作されたロボットも。その姿がちゃんと残っているだけでなく、今でも元気に(?)デモンストレーションしてくれるマシンもあって、ワタクシ感激してしまいました。

ポーターロボット 写真

人随伴(搬送用)のポーターロボット(2004年)。開発当時は空港で実証実験が行われたそうです。結構かわいい顔をしていますよね。

巡回搬送ロボット 写真

荷物を目的地まで自動で運べる巡回搬送ロボット(2008年)。ポーターロボットの進化形です。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン™近くのホテルでも実証実験が行われました。


ロボットハンドのついた生活支援ロボット「ソシオ」(2002年)。

携帯電話に顔や両手がくっついた「アミュレット」(2004年)。コンパクトな見守り用ロボットとして開発されました。

医療用ロボットの前身となった「薬剤搬送ロボカート」(2008年)。

実はパナソニックは21世紀に入った頃から、すでにこれらアシストロボットの開発に取り組んでいたんですねぇ。特筆すべきは、それぞれのロボットたちが空港やホテル、病院など、実際の使用を想定した場所で、きちんと実証実験をこなしていること。地道にデータ収集に励み、実用化に向けた開発努力を試みてきたからこそ、今このタイミングで、第1話でご紹介した「ロボティックベッド」や、第2話の「注射薬払出ロボット」など、よりユーザー視点のロボットたちを世に送り出すことができているというわけです。

少しでも早くお客様のもとへ・・・開発者たちの真摯な思い

さて、2009年9月から10月にかけて、福祉機器展、CEATEC、そして今回の記者発表と目まぐるしく準備・発表を進めてこられた開発者の皆さんは、今、どのようなことを感じておられるんでしょうか。まずはロボティックベッド担当の主任技師・河上さんに伺ってみました。


河上 日出生 (かわかみ ひでお)
パナソニック株式会社 生産革新本部 ロボット事業推進センター 主任技師

「私の場合はやはり、福祉機器展でロボティックベッドを出展し、大勢のお客様の声に直接触れられたことがありがたかったです。今すぐにでも欲しいという切実なお話をいただいて、改めて自分たちの関わっているモノづくりの意義深さというのを感じました。夢というよりも、使命といった方がいいかもしれません。待っていてくださる方々のためにも1日でも早く、お客様のもとに送り出したいというのが今の気持ちですね。今後は、何台か試作を作って、モニターの方に実際に試用してもらうことや、海外の病院でのデータ収集などに取り組んでいきたいと考えています。

ロボティックベッドの先に目指しているものは、介護を必要とする方々の生活の場における多様な活動(身体の動き)の自立をアシストするロボットです。誰でも身体は衰えていくものですから、その衰えてしまったり失われてしまったりした身体機能をアシストするロボット、それも道具のように気軽に扱えるものを考えています。ロボットが身体の動きや機能を補完して、人は自らの意思でこれまでどおりの生活を送れるようにするという形を目指しています」

なるほど、「自立をアシスト」ですか。足腰が痛くて歩くのもままならない・・・という方をアシストして、これまでどおりに散歩などを楽しめるようになれば、毎日意欲的に過ごせそうですよね。これからも、使う方の身体だけでなく心も元気になるような、そんなロボットを開発していってほしいです。

続いては、「注射薬払出ロボット」の開発に関わっておられる松川さんです。記者発表では、第2話でもご紹介した「院内アシストカート」の最新モデルもお披露目されましたよね。


松川 善彦 (まつかわ よしひこ)
パナソニック株式会社 生産革新本部 ロボット事業推進センター NWロボットシステム開発担当 主幹技師

アシストカート 写真

「はい。このアシストカートは今回初めて実物を皆さんにご覧いただくことができました。カートには連結部が用意されていて、その規格に合ったものであれば、車いすやベッド、ストレッチャーなど、いろいろな物と連結して搬送できるようになっています。

例えばこちら。ここはロボットオープンラボの一角です。系列の松下記念病院の一室を忠実に再現し、開発途中のロボットの実証実験を行っているんですが、ほら!見てください」

病室を模したラボの一角 写真
病室を模したラボの一角 写真

よく見ると・・・ホントだ!ここでは、ベッドと連結させているんですね。こんな大きくて重たそうなベッドも、この小さなカートが引っ張ってくれるんですか?

「ええ、実はこのカートには、150kgの重量物をけん引できる力があります。『力検出センサ』で運び手の力加減を検知し、電動アシスト自転車にも使われているモータで必要な分だけパワーをサポートしますから、重たいリネン類や、ガラス製容器の多い薬剤の棚などもストレスなく運べますよ」

ちなみにアシストカートは、電動車いすと同じく免許が無くても運転できます。実物を目の前にして、体重が90kg以上のワタクシも乗ってみましたが、余裕でスィ〜っと動いてくれました。楽なのでクセになりそうな1台です(笑)。

それにしても、開発現場の一角に、実際の病室と同じ空間をそっくりそのまま再現しているのには驚きました。それぞれのロボットたちが使われる場所を厳密に想定し「リアル目線での開発・検証」にこだわり抜いている。そんな様子がうかがえます。松川さん、「病院まるごとロボット化」に向けて、着々とロボットの精度を上げておられますよね!


「ありがとうございます。今は、個別のシーンに合わせて、一つの機能を忠実にこなすロボットたちを作っているわけですが、将来的にはそんなロボット同士がコミュニケーションをとりながら、お互いに協力し合うようになったらいいなと思いますね。例えば注射薬払出ロボットが数台並んでいたとして、比較的オーダーの少ないマシンが『いま、こっちヒマだから、仕事を回して』なんて他のマシンに伝えるとか。ロボティックベッドの場合なら、ベッドから車いすになって『次はリビングに行きます』と発信すれば、ホームコンピューターがそのメッセージを認識して、その行き先でエアコンや照明をつけて準備をしておいてくれるという具合です。

肝心なのは、そうしたロボット同士の会話が人にもわかる言語で交わされるということ。ロボット同士の会話を聞いて、ユーザーが『それは後回しでいいから、先にこっちをお願い』なんてオーダーを差し替えるとか、ロボットと人が自然にやりとりできる環境になったらすごいですよね。私はもともとネットワークロボットの開発が本職ですので、これからもロボット同士やロボットと人、それぞれのコミュニケーションについて追及していければと思っています」

と、なると、いつかはロボット同士で愚痴ったりするときが来たりするんでしょうか。例えばワタクシみたいにズボラなユーザーに当たったロボットたちは、夜中に「ウチの主人、ボクを買って1年にもなるのに、まだ1回も掃除してくれないんだよねぇ・・・」「ワタシなんか、5年経つのに、ホコリも払われず、そのまんまだヨー(泣)」などと、ロボット同士が会話をする日が来るのかもしれません(笑)。でも、みんなで一致団結してご主人様を助けてくれるようなロボットたちが居てくれたら、本当にありがたいですね。

「家まるごとロボット化」時代を担うプロトタイプたち

「やはり、お客様のために思いを込めて開発したロボットを商品化していくこと、それが一番の夢であり、目標ですね。そうして世に出たロボットにお客様が感激してくだされば、もう言うことはないです」

と語るのは、ロボット企画担当リーダの小林さん。今、手がけておられる最新ロボットのこと、ロボット事業のこれからのこと・・・いろいろ教えてもらいましょう。


小林 昌市 (こばやし しょういち)
パナソニック株式会社 生産革新本部 ロボット事業推進センター ロボット企画担当 リーダ

「我々が継続的に取り組んでいるのは、『家まるごとロボット化』に向けたモノづくりです。ラボ内には、病室だけでなく、一般家庭の住まいを模したスペースもあります。そこで要素技術開発として東京大学と共同研究を行ったのがこちら、『キッチンロボット』です」

キッチンロボット 写真

なんと、小林さん!!キッチンに「手」が生えているではありませんか!?

「はい、ご覧のとおり『キッチンロボット』の要となるのが、このロボットハンドです。『お皿を入れたり、出したり』といった単純な反復作業をサポートして、その分、家族団らんの時間を増やしてもらおう、という目的で開発しました。ハンド部分はシステムキッチンの裏側に1機設置されており、キッチンと平行に移動します。例えばシンクに置いてある食器をキッチンの端にある食器洗い乾燥機にセットしたり、逆に取り出したり、お玉を持つなどして調理や後片付けの補助をしてくれます」

おお、お皿だけでなくお玉の柄みたいな細いものまでつかめるんですね。「食洗機にお皿をセットする作業」は、大家族だったら大助かりですよ。わが家は6人家族なもんですから、1日に使われる食器の量もかなりのものになります。食洗機にお皿をセットしたり出したりするのも、手間と言えば手間なんですよねぇ。キッチンで猫の手ならぬロボットの手を借りるというアイディア、ワタクシは良いと思います!

「ロボットハンドの最大の特長は、様々な大きさ、形状をした食器に沿って指の位置を調整する差動メカ機構です。さらに東京大学と共同開発したMEMS触角センサを装着することで、握りつぶさず、かといって中途半端に持って落っことしたりせずに、まさにヒトの手のごとく、手探りをしつつ適切な加減でつかめるところです。この手探り技術も東京大学との共同研究の成果です」

すごい。ワタクシも日ごろいろいろな企業や大学で研究開発されているロボットを見てきていますが、「モノをつかむための触覚」をロボットの手に持たせるというのは、なかなか大変な技術なんです。

ロボットハンド 写真

持ち上げるものが硬い物なら、ただただ強い力でつかめばいいわけですが、食器はデリケート。無理な力が加わるとすぐにヒビが入ったりします。それを避けるには、そのモノが「割れない・かつ落ちない」最適な力の入れ方をロボットに覚えこませなければなりません。言いかえれば、「モノを持ったときの滑る感じ」まで検知できるようにして、滑らせないよう制御するためのプログラムをインプットしてやらないといけないんですね。

今回のロボットハンドは、お箸のようなわずか4gほどの軽くて細長いモノから、液体がなみなみ注がれた900g程度のガラスのコップまで、落とすことなくつかむことができるそうです。それでもまだ開発途上ということは、これからますますヒトの手の精密さに近づくべく進化していく・・・ということですよね?

「はい、このキッチンロボットもあくまでも要素技術開発のひとつとして進めており、進化途中の姿です。このようなロボットを一般のご家庭でお使いいただくためには、まだまだ安全規格の面において、そして法律や保険といった社会的インフラの面においても整備が必要ですから。

ただ我々としては、ここで採用されているロボットハンドの機構については、お皿を持つ、運ぶといった働きとはまた違う、ヒトの手ならではの動作をさらに突き詰めて、実際の製品として落とし込みたいと考えています。まずは病院・介護の現場で活躍するものを・・・ということで研究開発を進めているんですが、どんな動作か、想像つきますか?」

えーと、入院患者さんや介護を受ける方にとっても役立つ「動作」ですよね?うーん、何だろう?リンゴをむくとか?いやすいません、ちょっとピンときません。

「目指しているのは、『洗髪』のできるロボットなんです」

せ、洗髪ロボット!?


「洗髪ロボット」開発の様子。人間そっくりのダミー人形の頭を2本のロボットハンドがマッサージしている。

「『洗髪』の動作は、ヒトの手の動きについて研究するにはもってこいなんです。現在は、それぞれの指の動き、関節の曲げ具合、どの時点でどんな力が加わったら気持ちいいのか・・・など、微妙な加減についてデータを集めていってます。とはいえ『洗髪してもらって気持ちよかった』と思っていただくことが肝心ですので、その結果に結び付く形状を追求していっているところです。ヒトの手や指とまったく同じ形状にすることにはこだわっていません」

将来「洗髪できるロボットハンド」が完成した暁には、病院や介護施設などで大活躍してくれそうです。患者さんや介護を受ける方にとっては、「お風呂は身体に負担が大きいけど、洗髪ぐらいなら大丈夫、むしろ気分がスッキリする」という方も多くいらっしゃるでしょうし。

とにもかくにも、まずは看護師さん、介護する方のいる現場に向けてアシストロボットたちを送り込みたい、というのが大目標なんですね?

「そうですね。当社は、工場で使われているロボットを、まずは病院向け、中でも薬剤部門向けにご提供し、そこから様々なシステムやサービスを構築し、事業化を目指しています。社会の高齢化と共に医療現場では仕事が増えていくのに対し、医師や職員の数が減っているのが現状。そこでロボットで置き換えられる作業はどんどん置き換えて、医師や看護師など、人しかできないことが存分にできるようにしていければと考えています。その上で、薬剤部門まるごとロボット化の次に、病棟全体、病院全体へとロボットの守備範囲を広げ、病院スタッフの業務支援をすると同時に、介助犬のように人と接しながらちょっとした作業を補助してくれるようなロボットにまでも進化させていければ、と思っています」

なるほど、そうなれば、医師や看護師の皆さんがさらに専門業務に専念でき、入院患者さんにとってもより満足な環境で治療を受け、療養することができるようになるかもしれません。誰しもが経験するであろう未来に朗報です。期待していますヨ!

このたびの取材では、最初にロボティックベッドでビックリして、次に薬剤師さんをサポートするロボットを知り、今回はロボットハンドの進化を垣間見ることができ・・・本当に盛りだくさんの内容で、あらゆる場所であらゆる姿で活躍してくれるロボットたちを拝見することができました。今後しばらくは病院内で活躍するアシストロボットたちが増えていく、ということでしたが、将来的に、小林さんはロボットたちにどんな進化をさせていきたいですか?

「基本的にアシストロボットの見た目については、人とそっくりにする必要はないと思います。まずはアシスト役としての機能がきちんとしていることが第一かなと。ただ、ユーザーと対話するための要素として、『顔』にあたるものがあることは重要かなと思います。ボディランゲージを行なえるような腕や足にあたるものもあるといいでしょうね。クルマの場合、エンジンの音で調子のいい悪いがわかったりしますが、ロボットにも自らの調子を伝える独自の表現があればいいなとも思います。

ロボットと普通の機器との違いは、インタラクション性があるかないかです。インタラクション性とは、人の意図を汲んで、意図の通りに反応を返してくれる・・・ということ。いわば人にちょっと歩み寄ってくれる知的さ、人間らしさ、とでもいいますか。ですが、『意図の通り』じゃないのも、また人間らしさなんですよね・・・。そう、ひょっとすると、未来のロボットには、賢さだけでなく、使い手の期待をちょっと裏切るような、悪気のない『気ままさ』みたいなものがあった方が面白いのではないかなとも思いますね。これまでの機器とは違う、そういったロボットならではの価値というのは、今後も業界横断的に広めていきたいですね」

「気まぐれロボット」ですか!あんまり生意気すぎても困りますが、無理なことを頼むと「えー、無理だよー」なんて返してくるロボットって面白いかもしれません。もしも「素直に言うことを聞かないモード」みたいなものがあったりしたら、たまには使ってみたくなるような気がします。

うーん、小林さんたちのコメントには未来のロボットにつながるアイディアがたくさん見え隠れする感じで、興味深いですねー。すでに一部は実用化しているというものの、ロボットの大きな発展はまさにこれから。この図を見てみると、パナソニックの描くロボット事業ビジョンは、工場、病院、家・・・に留まらない、もっともっと広い範囲に及んでいるようです。

パナソニックのロボット事業ビジョン
高齢化社会における快適で豊かなくらし実現に貢献 イメージ図

確かに、この事業ビジョンを見てみると、工場、病院・介護施設、一般家庭・・・と、今まで伺ってきた場所のほか、街角・公園といった「公共スペースまるごとロボット化」も視野に入れておられるのがわかります。リビングダイニングのアイランド型キッチンとセットになっているロボットや、階段の上り下りもラクラクこなせる脚車輪型の乗り物、そして引っ越しなどで活躍してくれそうなロボットも見受けられます。いやあ、ワクワクしますねぇ。

この数ヶ月、ロボット事業推進センターの開発者の方たちに数多くお会いしてきましたが、皆さんとても意欲的で、熱い方たちばかりでした。彼ら・彼女らの手による次なるロボットの誕生が楽しみでなりません。これからもパナソニックのロボットに注目し続けることを誓いつつ、今回はここで筆を置かせていただきます。ありがとうございました!

(おわり)

第二話 薬剤師を助けるロボット に戻る

デイビー日高氏 写真

デイビー日高

1969年、東京都墨田区生まれ。
息子ふたり、娘ふたりの「子だくさん」ライター。
サイエンス&テクノロジー、自動車&モータースポーツなどが好き。
主な寄稿先はRobot WatchロボコンマガジンCar WatchResponseなど。

デイビー日高の公式HP 「スタジオティターンズ.com」
http://www.s-titans.com/

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