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※過去に掲載された記事になります。内容は公開時のものであり、最新の情報とは異なる場合がございます。

くらしを支える道具の未来 〜パナソニックのロボット技術〜
  • Introduction
  • 1:ロボティックベッド
  • 2:薬剤業務支援ロボット
  • 3: 開発者の夢

2009年11月3日公開

第二話 薬剤師を助けるロボット

ライター:デイビー日高

医療現場で薬剤師さんを助ける「注射薬払出ロボット」とは!?

薬剤の容器 写真
「注射薬」とされる薬剤は、「アンプル」と呼ばれる透明な容器に入っています。容器はガラス製のものや、こういうプラスチック製のものがあります。

まいど!ロボットが大好物のライター、デイビー日高です。パナソニックのロボットに迫るリポートの第二話をお届けに上がりました!今回は、10月15日の記者発表で得た最新情報も含めて、医療用「注射薬払出ロボット」を中心にお届けします。後半には、「CEATEC JAPAN 2009」でのパナソニック代表取締役社長・大坪文雄氏の基調講演ルポもお届けしますよ。なんとこの基調講演でも、ロボット事業のことが大々的に紹介されたんです!いや〜、パナソニックのロボット開発、間違いなく本気ですよ!

注射薬払出ロボットはどこで、何をするロボットなの?

さて、今回取り上げる注射薬払出ロボット、みなさんはどんなロボットか想像がつきますか?ちなみに、ワタクシは、患者さんのための注射薬の自動販売機みたいなものを想像してしまいました。残念ながら、それはブブー!です。今回のロボットは、患者さんが直接利用するものではなく、病院の薬剤部門で、薬剤師さんの仕事をアシストするロボットなんですねぇ。

ではまずは、日ごろ薬剤師さんがどんなお仕事をしているのか、についてご説明しましょう。

薬剤師さんは、お医者さんが出す処方箋に添って、大量にある薬品の中から正しく薬をピックアップし、患者さん一人ひとりの病状や体質、一緒に使用している薬のことも考慮しながら適切な分量を決めていきます。速さと正確さが求められるこの作業、完璧に人の手で行うのは実は結構大変。10や20の薬品から選ぶのならまだしも、実際には1,000を超える薬品があり、つい「うっかりミス」を誘発しそうな似かよった名前の薬品もたくさん存在しています。万が一間違って調剤してしまったら、人命に関わる事態にもなりかねない・・・非常に神経を使う、重大な役目を背負ったお仕事なんですね。

このほか、薬の投与歴の管理、複数の薬を一緒に飲んでも化学反応的に問題ないかのチェックなど、薬剤師さんの仕事の領域は多岐にわたります。中でも重要視されているのが、「患者さんへの服薬指導」。薬剤師さんは、患者さんと直接向き合うのも仕事。お医者さんの意図に添った服薬をしてもらうために、患者さんに対して「それぞれの薬にどんな役目があり、どんなタイミングで服薬するべきか」といったことを説明・理解してもらう大切な仕事です。

しかし、取材時に伺ったリサーチ結果によると、現在の薬剤師さんは、処方箋に添った薬品ピックアップ(実は薬剤師の資格が無くてもできる単純作業)やそのチェックに、仕事時間全体のおよそ半分もの時間を費やしているらしく・・・。一方、「患者さんと直接ふれあう時間」には、ほんの数%程度しか割けていないそうなんです。

そうした単純作業の時間を減らして、薬剤師さんにしかできない仕事、つまり患者さんへの服薬指導などにもっと時間を使ってもらおう!というコンセプトで開発されたのが、今回ご紹介する「注射薬払出ロボット」なのです。

ではここで、2009年10月15日に紹介された最新の開発モデルをご紹介しましょう。

注射薬払出ロボット 写真
こちらが、10月15日に記者発表された最新モデルです!

このロボット、パッと見はただの大きなキャビネット。ですが実に賢いシステムのかたまりです。お医者さんの処方箋に添って、まずPC上で必要な薬品について入力します。そのオーダー情報がLAN経由で送られ、ロボットが各棚から必要な薬品を、必要な数だけピックアップ。注射薬や使用時のラベル、ピックアップしたアイテムが一覧できる伝票も含めて、払い出し用のトレーに乗せてくれるというわけです。薬剤の入ったアンプルがたとえガラス製であったとしても、ソフトなハンドリング技術によって丁寧に扱われ、割れることなく取り出されます。

細かい部分は、どうなっているかというと・・・

注射薬ピッキング機構の写真。指示された薬品を選別し、必要な数だけ下のトレーに乗せる仕組み。

注射薬払出ロボットの初代モデル 写真

このロボット、すでに初代モデルが商品化されており、最前線で活躍中だったりします! もちろん業務用なので「まちのでんきやさん」や家電量販店などでは売っていませんから、見たことがある人はそうそういないと思いますが、医療に従事する方たちからは、アンプル破損率が5万本に1本以下!ということで、非常に高評価を得ていたりするのです。

「医療・福祉の現場の中でも、病院の薬剤部門は大量の物(薬品)を扱っていますので、FA(ファクトリーオートメーション)の技術を活かしやすい現場だと言えます。お仕事の内容からしても、まずは薬剤を扱う方々の労力を減らすことから始めたいと思い、開発・商品化を進めています」


松川 善彦 (まつかわ よしひこ)
パナソニック株式会社 生産革新本部 ロボット事業推進センター NWロボットシステム開発担当 主幹技師

と説明してくれたのは、ロボット事業推進センターで調剤支援ロボットの開発責任者を務める、NW(ネットワーク)ロボットシステム開発担当 主幹技師の松川さん。「ひとが主役、ロボットはひとをアシストする存在」がパナソニックのロボット開発の基本コンセプトですが、注射薬払出ロボットは苛酷な医療現場のプロフェッショナルを支えている現役選手、というわけなのです。

パナソニックが、まず医療や介護の現場で活躍できるロボットを作っていこうとしているのは先の章でもうかがいました。第一話のロボティックベッドも、実際に医療や福祉の現場で開発者が実習をしたり、介護施設のスタッフの方たちによる実証実験を重ねたりしながら、つまり現場をよく知ることで、開発が進められていますよね。で、今回の注射薬払出ロボットですが、これはどのような経緯で開発スタートしたんでしょうか?

薬剤部門の過酷な現状を、パナソニックのロボットがフォローする!!

「医療の現場でどんなロボットが求められているか調べた結果、やはり最初にお助けしたいと思ったのが『薬剤部門』だったんですね。薬剤師さんは、ケースに入った薬品だけを扱うのではなく、液体やガスなどが直接人体に触れる可能性のある場で調剤作業を行うので、体力的にもキツかったり、危険だったりするわけです。


容器から薬品を注射薬に吸い上げる作業を見せてくれる松川さん。吸い上げには思ったよりも力が要求されるそうです。確かに手も疲れそう。(実際の作業は、手袋・マスクなどを装着した上で行われます。)

例えば抗ガン剤の成分は、液体の状態で適量注射する分には薬になるのですが、そのままガスを吸ってしまったら命に関わります。そんなデリケートな薬品も、現場では薬剤師さんが手作業で容器から注射器に取り入れて作業されています。もちろん薬品は密封された容器内にあり、ゴムのフタに注射針を突き刺して必要量を採り出すのですが、この作業は技術と同時に力も必要なんですね。大きい病院では3ケタを超える入院患者さんの薬品を毎日調剤することもあるわけで、こうした調剤作業がものすごい重労働となり、腱鞘炎になる人も多いそうです。

そうした現状を少しでもお助けできるロボットを開発していこうということで、最初に注射薬払出ロボットが生まれました。このロボットに続いて、薬剤部門から病棟に薬剤を搬送するロボット『アシストカート』も実現間近となっています。将来的には、注射器に薬品を移す作業をサポートするロボットも開発していきたいと思っています」

アシストカート 写真
用意された薬剤などを病棟へ運ぶ「院内アシストカート」。人が乗って移動することはもちろん、車いすや薬剤カート、ベッドやストレッチャーなどをけん引することもできる優れモノ。ちなみにこの女性、パナソニック社員でありながら薬剤師の資格を持っておられるそうで、ロボットの評価・検証もよりリアルな目線で行われている様子です。

ところで、従来モデルと現在開発中のモデルとは、どんな違いがあるんですか?

「従来モデルは性能的には評価いただいているのですが、まずサイズが大きいという問題がありました。なおかつ、メンテナンスのために常に背面にスペースが必要ということもあり、大病院以外は置きにくい点がネックだったんですね。そこで今回のモデルでは、奥行きを1mから70cmに薄くして、壁にピッタリ設置でき、前面や側面からメンテナンスが可能なデザインに設計しました。占有面積にして現行型の50%ほどに省スペース化できた上に、結果として低価格化も実現しました。高速かつ安定稼働なところは従来どおり。1時間で1,000本という高速な払い出しが可能です」

今回の省スペース化により、従来モデルがターゲットとしていた「ベッド数300床以上の大病院」だけでなく、「200床以上の中規模の病院」にも設置できることになるそうです。「大病院」というのは全国1万弱ある全病院の内、1割ほどしかないそうですが、「中規模の病院」まで含めると一気に数千規模の数になるそうです。そうした現場で日々活躍中の薬剤師さんたちにとっては朗報ですよね。

薬剤部門がロボット化されれば、薬剤師さんの負荷はグンと低減!
薬剤部門がロボット化されたら?ビフォー&アフター イラスト

大学の薬学部に6年間通い、国家試験をパスして初めて得ることのできる薬剤師資格。その狭き門をくぐって夢を叶えられた方たちはもちろんのこと、そのほかの医療関係者さんたちを、適材適所のロボットたちでどんどんサポートしてあげてほしい〜。ひとは誰でもケガや病気で病院のお世話になる可能性はあるわけで、薬剤師さんたちの「単純作業への負担」が減って、「患者さんへのケアの質がアップする」なんてことは、ワタクシたち全員にとってありがたい話です。

「薬剤部門まるごと」の次は、「病院まるごとロボット化」を目指して

注射薬払出ロボットのことを「見た目は普通のキャビネット」と書きましたが、実際のところ、このロボット自体が「薬品置き場」でもあるわけでして、処方箋に合わせた薬品ピックアップをしながらも、在庫管理も担ってくれているんです。ロボットが在庫管理と薬品の払い出し、その両方を担当するということは(当然、薬剤師さんほか専門の方たちのチェックは必須としても)、「薬剤部門まるごとロボット化」が実現するとも言えます。パナソニックのロボット事業プランでは、薬剤部門を経て、病院全体に展開する「病院まるごとロボット化」なんていうテーマもあるんです。そして、その先には、「家まるごとロボット化」というテーマも・・・!

病院まるごとロボット化 イメージ図
今後の展開として、薬剤部門だけでなく、病棟、介護・リハビリ、そして在宅までの支援を想定した事業展開が予定されているそうです。

松川さんの専門分野は、「ネットワークロボット」。これは、空間全体に分散して配置したセンサーやアクチュエータ(モーターなどの駆動装置)をつないで、その空間自体を知能化=ロボット化するという内容なんですね。「病院まるごとロボット化」を実現するには、そうしたネットワーク技術が必要不可欠。よって専門家である松川さんも、「病院まるごとロボット化」への第一歩である注射薬払出ロボットの開発にも関わっているというわけです。

それにしても、実際に「病院まるごとロボット化」が実現したら、どんな感じになるんでしょう? たぶん、お医者さんや看護師さんたちがその場でカメラとかモニターに向かってしゃべって(実際にはマイクが聞き取るわけですが)、それに対してロボット(病院を管理するコンピューター)が返事するという光景が想像できたりします。人が行うには重労働だったり、危険だったりする作業は、もちろんロボットがサポート。お見舞いに来た人たちも、ロボットが病室まで案内をしてくれそうです。SFの世界としか思えなかったようなことが、もはや近い将来、現実になっているかもしれませんね〜。

「将来的には、薬剤師さんの知識までロボット化できないかと考えています。薬品を複数服用したときの副作用についてなどの知識を幅広く深く持っておられるのが薬剤師さんです。その知識を持つロボットがあれば、現場に携わる方の記憶力をサポートできるのではないでしょうか」

薬剤師さんも人間だから忘れてしまったり勘違いしたりするような場合もゼロとはいえないでしょうから、それをサポートしてもらえれば、ありがたいですよね。将来は、薬剤師さんとロボットが会話しながらもっともっと速く、正確な調剤が行われていくのではないかな?とまたまた想像してしまうワタクシなのでした。

それではここで、CEATEC JAPAN 2009の基調講演についてご紹介しましょう。

CEATEC JAPAN 2009 基調講演 『新しい時代の「くらし価値創造」を目指して』取材ルポ

2009年10月6日、ワタクシ、ただいまCEATEC JAPAN 2009を開催中の幕張メッセにいます。大坪社長の基調講演がこれから始まるところです。報道陣、一般聴講者含めて、1,000人? もっとかな? とにかくすごい人数です。さすがです。

大坪文雄社長 写真
パナソニック代表取締役社長の大坪文雄氏。
基調講演の会場 写真
講演が終わった直後。会場はこの人数が聴講していました。

講演内容は、パナソニックはエコを基幹に置いて企業活動を行うという方針から始まり、大きく「エコなくらし」「つながるくらし」「安心・安全なくらし」の3分野に分けて、現在の製品の話と、今後の展開が紹介されました。ロボットは、3つ目の「安心・安全なくらし」の最後に、基調講演の大トリとして紹介されたんですねぇ。それだけ期待がかかっているということの表れではないでしょうか。ロボットについては、まず「主役はひと。ロボットはくらしを支える道具」というパナソニックのロボットの基本コンセプトからスタート。前回紹介したロボティックベッドは大きく取り上げられていましたよ。今回の注射薬払出ロボットも登場しましたし、そのほか、この章でもご紹介した「アシストカート」や、それに人が乗れるバージョンの「電動カート」、第1話で少しだけ紹介した寝たきりの方や下半身が不自由な人のためのベッド・車いす間などの移乗をサポートする「トランスファ・アシスト・ロボット」、さまざまな物体をつかんで移動させられる「ロボットハンド」、頭を洗ってくれる「洗髪ロボット」なども紹介されました。中には知らないロボットもあったので、こんなのも開発していたんだと、ワタクシも驚いた次第です。

講演で発表されたアシストロボット 写真
ロボットも多数紹介されました。
パナソニックブースの様子 写真
パナソニックブース。今回はロボットの出展自体はなかったのですが、FULL HD 3Dプラズマシアターなどで、ものすごい人だかりに。

それにしても、社長自らがこれだけ大きな展示会の基調講演で世界に向けて大々的に発信するということは、どれだけパナソニックがロボットを本気で開発しているかのあかし。パナソニックのテレビCMなどで女優さんがロボットをアピールしたり、共演したりする日が来るのも、そう遠い未来ではないのでは・・・。そんなことを感じさせてくれる一幕でした。

さて次回ですが、いよいよ最終回。最後は、これまでご登場いただいたロボット事業推進センターの方々に、今後の展開や夢についてドーンと語っていただきます。パナソニックが過去に開発してきたロボットたちにも、これを機会に登場してもらいましょうか。どうぞお楽しみに!

ロボットハンド 写真
このロボットハンド、かなりの働きモノのようです・・・。

 

第三話 ロボット開発者の夢は尽きず に進む

第一話 起動!ロボティックベッドに戻る

デイビー日高氏 写真

デイビー日高

1969年、東京都墨田区生まれ。
息子ふたり、娘ふたりの「子だくさん」ライター。
サイエンス&テクノロジー、自動車&モータースポーツなどが好き。
主な寄稿先はRobot WatchロボコンマガジンCar WatchResponseなど。

デイビー日高の公式HP 「スタジオティターンズ.com」
http://www.s-titans.com/

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