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※過去に掲載された記事になります。内容は公開時のものであり、最新の情報とは異なる場合がございます。
こんにちは! ロボット好きのライター、デイビー日高です。どもども。いよいよ、パナソニック製ロボットの真価に迫ります。今回は、9月29日から10月1日まで開催された第36回 国際福祉機器展で、世界で初めてその姿を現したベッド型ロボット「ロボティックベッド」をご紹介。貴重な試乗体験もご報告します!
ひとを主役として、そのくらしをアシストすることを目的に開発が進められているパナソニックのロボットたち。その最新モデルであるロボティックベッドを手がけたのは、ロボット事業推進センター・主任技師の河上さんです。彼はこれまでも「介護用ベッド」を中心としたモノづくりに取り組んできた技術者さんだそうです。
「ロボティックベッドは、高齢者の方や身体の不自由な方、特に足の不自由な方を対象にしています。こうした方たちにとっては、日々の生活において、ベッドから車いす、また車いすからベッドへ、という移乗が大変な作業なんです」
確かにその通りですよね。ワタクシみたいな90kg以上もある人間が動けなくなったら、プロレスラー2、3人に来てもらわないと、ベッドと車いすの間の移乗なんてできなさそうです。介護する方も、移乗のお手伝いをしているときに腰を痛めてしまったりすることも多いとか。
「そうなんです。介護施設ならまだ人手も確保できますが、一般のご家庭となると、介護者にかかる負担はかなりのもの。そのため、介護・介助の現場で求められるのが、『もっとラクにベッド・車いす間の移乗・移動をしたい』ということでした」
そこで、河上さんがずっと携わってこられた介護用ベッドをさらに進化させて、何かできないか・・・ということで、いきなりこのロボティックベッド誕生・・・ということではないのです。実はここにたどり着く前に、パナソニックでは「トランスファ・アシスト・ロボット」(TAR)という介護用ロボットを開発しているんですね〜。
■2007年の国際福祉機器展に参考出品された、トランスファ・アシスト・ロボット
おわかりでしょうか。このロボットは、介護する方が寝たきりの方を抱え上げる際、人がするのと同じように「両腕で抱き上げる」動作でサポートするロボットです。ロボットの両腕を寝ている方の背中とベッドの隙間に差し込むわけですが、床ずれなどで皮膚が弱っている方には、図らずも痛い思いをさせてしまう可能性も払拭しきれなかったんですね。
「我々のモノづくりに欠かせないのが、『安心、安全』というポイント。寝たきりの方にロボットのアームを直接的に接触させるのが、相手にとって本当に安心できて安全なのか。そうした点をさらに追及していった結果、その方が常に使われるであろうベッドと車いす自体に移乗機能を持たせられればいいのではないか、という考えに行きついたんですね。ロボットはロボットでも、自ら腕は持たない。誰かを抱きかかえることもしない。その代わり、最初からそこに居てもらって、姿勢を変えるお手伝いをし、そのまま移動できる仕組みを持つ・・・そんな『ベッドと車いすが合体したロボット』を創ってみよう、ということになったんです」
ふむふむ。アームで抱え上げてくれるTARも、まさに力強さあふれる頼りがいのあるロボットらしいロボットという気がしますが、実際に開発し、試してみて、そこで新たな方向性が出てきたと。そんな紆余曲折を経て、ロボティックベッドのコンセプトが生まれたんですねぇ。
しかし、実際に介護の現場で声を集めたり、テストをしたり・・・というのも大変そうですが。
「実は、パナソニックは介護施設も運営しており、その全面協力を得ながら研究・開発を進めています。開発者自ら、その施設で介護の実習をしたり、逆に施設のスタッフの方々に開発現場へ来ていただいて、実際に試作のロボットを使っていただいて評価・検証をしたりしています。
そうした活動の中から、介護施設では個室が増える傾向にあるものの、室内にあるベッド、車いすにプラスして、ロボットが動作できるスペースまでは確保するのが難しく、またロボットを保管しておく場所の確保も同様に大変、ということもわかりました」
パナソニックは介護施設まで運営しているんですか!知りませんでした。開発者自身が現場の空気を体感した上で、介護する方、される方とも直接触れ合いながら、ロボットの企画や仕様を詰めていくわけですね。「ひとが主役」の製品を目指すだけあって、なんだかホッとするエピソードです。
「また、ロボットの導入に関しては、受け入れる側の気持ちの面でも難しいところがあるんですよ。介護の現場で働いておられる方には女性が多く、また年配の方も多くいらっしゃいます。そういう方たちは、大きくて扱いにくそうに見えるロボットそのものにかなり抵抗感、違和感を示されます。ですから、いくら機能が良くても、『本当に安心して気持ちよくお使いいただける存在になりうるか』という点も、十分に配慮しないといけません」
そういう気持ち面においても、ベッドや車いすそのものがロボットになればスムーズに受け入れてもらえる・・・という結論なわけですね。
「そうです。介護施設であれば、ベッドや車いすは、どの部屋にも普通にあっていい。しかも、ベッドの一部が車いすになれば、さらに空間の有効活用になります。また、新しいマシンやロボットという存在自体に抵抗を感じる方にとっても、見た目はベッドと電動車いすですから、自然に受け入れていただける。つまりロボットだ、ということを意識せずにお使いいただけるんですよね」
それでは、いよいよロボティックベッドの動作を拝見。案内された先では、すでに車いす部分がベッドから分離した状態となっていました。まずはこの車いす部分の動かし方や特徴などをお伝えしていきましょう。
「車いすの移動は、右のひじ掛けにある『パームホールドインターフェース』で行います。また左のひじ掛けにあるスイッチでは、リクライニング調整や車いすをベッドに戻すといった操作ができます」
次に河上さんが見せてくれたのが、車輪に使われている「オムニホイール」という部品。これのおかげで、360度スムーズに移動が可能。前後進はもちろん、斜めや、真横にだって思うままに移動できる。スペースに余裕のない部屋や、90度に近い廊下の曲がり角などでも、つっかえることなく移動できるよう工夫されているのです。
「基本的には乗っている方が操作することを重視していますが、もし誤って人や障害物のある方向に進めてしまったとしても、自然な感じで回避誘導するような仕組みになっています。そのためにセンサが常に作動しており、進路に何らかの障害物を検知した時は合図を出して、最終的にはぶつかる前に止まる仕組みです」
あらゆる部分で安全に気が配られているんですねぇ。安全すぎて困ることはないというわけです。
「それでは、実際に試してみますか?」
というわけで、ワタクシが実際にロボティックベッドを使わせてもらいます。まずは、車いすに座ってみました!
この車いすは、単体で使う時もリクライニング操作が可能で、ベッド本体に戻らなくても車いすだけで横になったりできるわけです。寝た状態だとひじ掛けのスイッチに手が届かなくなるのですが、そういう時のために音声認識機能での操作にも対応。だから、手の不自由な方でも声で操作できるんですね。そのほか、頬やアゴでスイッチを押すなど、利用する方の状態に合わせたインターフェースに対応することも可能だそうです。
ちなみに、背もたれがフラットで転げ落ちやすそうに見えるかもしれませんが、リクライニングなどで姿勢を変化させた時は、背もたれの両脇が少し起き上がる「サイドアップ機能」により、身体を左右から支えてくれます。
また、背中と座面のマット下には、乗っている方の体重のかけ方などを検知できる、体圧分布センサが搭載されています。このセンサを利用して、「そろそろ姿勢を変えた方がいいですよ」とアラームを鳴らしたり、自動的にリクライニングポジションや、背もたれの両脇部分のポジションを変化させて、同じ姿勢を長時間続けることで生じるうっ血などを回避させたり・・・といった機能の開発を進めているのだそうです。
ではいよいよ、車いすとベッドとの合体を試みましょう。
車いすには障害物との距離や角度などを検知する多数のセンサが搭載されています。ベッド本体と同じ向きになり、最初に分離した地点に近づくと、左手のひじ掛けのスイッチ「見たままインターフェース(立体アイコンスイッチ)」の周りがピコピコ点滅します。これが「ドッキングの準備ができました」という合図!ここでスイッチをベッド側、つまり今から車いすが戻るのと同じ方向に横押しすると、ドッキング開始です。
よく見ればこの立体アイコンスイッチ、ロボティックベッド本体(車いす・ベッド)と同じ形をしています。合体の時には実物の動きがそうであるように、車いすの形をしたスイッチをベッドの形をした部分に合体させるように動かせばいい。リクライニングしたい時は車いす形のスイッチを背中が倒れる側に倒し、背上げしたい時には前に倒せばいい。一種のミニチュアみたいな形だから、誰でも一度見れば直感的に操作できるようになっているんですね。
さて、車いす形のスイッチを左側に押すと・・・あとはオートマチックで合体のスタートです。
車いすが微妙に動き出しました。最初は、ベッド側との位置・角度の微妙な調整をしているようです。そして、背もたれが倒れて、足元が上がっていきます。かなりゆっくり移動するので、怖いという感じはありません。ただし、背上げ状態のまま足元部分が持ち上がる時に少々お腹が苦しくて「ダイエット」なんて言葉が浮かんできたことはナイショです!
その姿勢で固定したのち、ベッドに向かっていよいよ動き出しました。左側に、すべるように移動していきます。乗っている人に衝撃がないよう、ゆっくりした速度のままです。
ベッドの車いすが収まる部分にす〜っと入っていって・・・静かに合体完了です。
この後、車いすのひじ掛け部分が倒れたり、ベッド側の倒れていたパーツが持ち上がって車いす側に添うような動きを見せたりして、同時に背もたれやフットレストもゆっくり水平に倒れていき・・・ベッドの完成です! 一連の動きが完了するとちゃんと音声で「ベッドになりました」と報告までしてくれます。
ドッキング中の音も静か。かすかにモーターの音が聞こえる程度です。ドッキングが完了して止まる時も、揺れるようなことは全然ありません。そして、背もたれやフットレストが水平になっていく時は、なんとも寝心地がいいです。マットレスはパナソニック電工製の介護用マットレス「ラクマットエアー」と同じマット材が使われているんだそうで、その名のとおり、ラクなんです!徹夜明けで取材に来ていたワタクシ、思わず眠ってしまいそうになったこともヒミツにしてください!
ちなみに音声認識で操作するときは、こんな感じです。
ベッドに寝た状態で、「ロボティックベッド!」と呼びかけます。すると、「はい、何でしょうか?」とベッドが応えます。「背上げして」と伝えると、「背上げでよろしいでしょうか?」と再確認してくるので、「はい」と答えると動作スタート、背もたれが起き上がります。車いすになってほしいときは、「車いすになって」と伝えればOK。なんだか気軽に世間話でもできそうな雰囲気です。
う〜む、なんていうか、すでに至れり尽くせりの機能が搭載されていますね。きっと、すぐにでもほしい! という方も多いのではないかと思いますが・・・。河上さん、いかがですか?
「まだまだ実用化に向けて改善・改良していける部分が多くあります。もっと介護の現場で研究を重ねる必要がありますね。私たちは健常者ですから、介護を必要とする方たちがどういうことを欲しているかというのは、よく学ばないとわからないことがいっぱいです。今後も、この試作機を用いて現場と密着した開発を進め、さらに実用性・安全性を高めて、早期の商品化につなげていきたいと思います。
たとえば、今はベッドの上に『ロボティックキャノピー』といって、テレビ視聴やネット家電との連携のほか、セキュリティカメラの確認も可能な情報インターフェースを搭載した屋根のような部分がついています。このキャノピーがあることでお使いになる方が『シェルター』のような安心感を得られるのであれば、今後はさらに照明などにもこだわって作りこんでいく方向もありかと思います。一方で、このキャノピー自体、無いほうが気分がいい、という方だっておられるはず。何が最終形なのかは、使う人によって違ってくるはずです。そうしたことも、今後の検討材料になりますね」
ロボティックキャノピーのディスプレイ(画面は開発中のもの)。ベッドに居ながら他の家電の操作、セキュリティチェックまでできてしまう。姿勢に合わせてディスプレイの位置も移動する。
なるほど、河上さんの熱い話っぷりからすると、このロボティックベッド、まだまだ進化が続きそうです。これからも期待しています!
ではここで、展示会の取材ルポもさせていただきましょう。私も行ってきました、国際福祉機器展。ものすごい人出でした。特に、パナソニックブースでのロボティックベッドのデモには、大変な人だかりができていましたよ。(後で小林さんに確認したところ、デモごとに300人ぐらいのお客様が来られたんだとか!開発スタッフ一同、「介護/自立」といった分野におけるロボットへの期待の大きさを再認識されたそうです。)自分が体験させてもらったまさにそのプロトタイプが、マスコミや一般のお客様に囲まれて華々しくお披露目されている様子は、見ていて非常に誇らしく(?)、気持ちのいいものでした。会場では小林さんや河上さんも来場者の質問に熱心に答えておられましたよ。
デモンストレーションが始まると、ふと立ち止まって見入ってしまわれる来場者の方たち。その数、注目度はかなり高かったですね。海外の報道陣も集まってましたよ〜!ワタクシの隣でステージを見ていたオバちゃん・・・いや、奥方様たちも、ロボティックベッドが動くたびに「すごいすごい!」と喜んでまして、すっかりファンになっておられるようでした。
他にも「商品化まで何年も待てない。(生きているうちの)今、欲しい。なんとか早く商品にならないか」といった胸に迫るお言葉や、「新聞広告、ニュース等で見たが、実物は想像以上に完成度が高い」といったコメントが多く寄せられたそうです。
「大勢のお客様から感想を頂戴し、開発者としても一人の人間としても、なんとしても早く商品化しなければならないと改めて思いました」と河上さん。そのモノの呼び名が「家電」であれ、「ロボット」であれ、まずは使うひとのくらしにとって「便利であること」が一番。このロボティックベッドも、皆さんのハートに響き、「ああ、これは本当にあるといいな」と思っていただけたんですね。河上さん、これからも頑張ってくださいね!
といったところで、今回はこのあたりで。
次回は、医療現場で「既に活躍中!」という、頼もしいロボットに迫ります。お楽しみに!
見た目は普通のキャビネット。その実態は・・・?
デイビー日高
1969年、東京都墨田区生まれ。
息子ふたり、娘ふたりの「子だくさん」ライター。
サイエンス&テクノロジー、自動車&モータースポーツなどが好き。
主な寄稿先はRobot Watch、ロボコンマガジン、Car Watch、Responseなど。
デイビー日高の公式HP 「スタジオティターンズ.com」
http://www.s-titans.com/