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世界の授業を変える!電子「白板」 〜エリートパナボード〜

  • プロローグ : 
電子黒板、いまむかし
  • 前編 : これが最先端電子黒板だ!
  • 後編 : 世界に挑戦するキーテクノロジー

2010年12月14日公開

取材・文 / 田中実典 (たなかみのり)

後編 : 世界に挑戦するキーテクノロジー

パナソニックの最先端電子黒板、「エリート パナボード UB-T880」。使いやすさと先進の機能、耐久性を併せ持つこの製品は、どのようなドラマを経て世に出たのか。そして2010年秋、市場に対してどのようなアプローチをしつつあるのか。プロローグでご紹介した商品企画、ハード開発、デザインを担当された3人の方にそのあたりの事情をうかがってみました!

「紙とボールペン」の使い勝手を求めて

斉藤:
「パナソニックでは電子黒板の開発は25年以上行っていますが、教育用インタラクティブタイプの市場では後発になります。現在は、海外のメーカーが大きなシェアを持っています。日本での普及はまだまだですが、ヨーロッパ、特にイギリスでは70% 以上の教室に普及しているというのが現状です」

なるほど。では、後発の立場で打ち出す新製品として、どのようなコンセプトで開発をスタートされたのでしょうか?

斉藤:
「モノづくりに関しては、パソコン操作が苦手な方でも、直感的に使いこなせる操作性を叶えたいと思いました。まるで『紙とボールペン』を扱うように、自在に使いこなせる電子黒板ですね」

谷:
「そういった方向性が間違っていないかどうか、まずは学校の先生に従来品の使い心地を試してもらい、自由にコメントしていただいたんです。日本だけでなく、イギリス、アメリカ、オーストラリアなどの学校を訪れ見学やヒアリングを行いました」

谷水:
「斉藤からもありましたが、当社の場合2008年から教育市場に入ったということで、非常に後発のメーカーなんです。大手がシェアをとっている中へ参入していくので、やはり他社にない、当社ならではの技術的な優位性を持つ製品を開発しようということがベースにありました。また、やはり使いやすいもの、 先生や子どもさん達が使ったときに 操作性のいいものを、という思いがありましたね」

そうしてより使いやすい、 直感的な「電子ペンだけでなく、指でも操作できる」ボード面の開発に取り組むことになったわけですね。

斉藤:
「はい、それがマルチタッチパネルです。ここでは仮にA社としますが、競合他社が採用している位置の検出方式 は、フィルムを使うためにどうしてもボード面を強く作れないんです。もう一方のB社の方式は、逆にボードは強いんですが指での操作ができない。電子ペンでないとダメ。当社は、ボードも強くて、指でも操作できて、電子ペンでも特長を出せるような方式をやっていこうと。そうなった時に、他社ではどこもやっていない位置を検出する方式、これを実現しようというところから開発は進みました。その構造については、ハード担当の谷水からご紹介しましょう」


斉藤 武靖 (さいとう たけやす)
パナソニック システムネットワークス株式会社 イメージングビジネスユニット 企画グループ チームリーダー


谷水 弘実 (たにみず ひろみ)
パナソニック システムネットワークス株式会社  イメージングビジネスユニット イメージングシステムビジネスグループ 主任技師


谷 篤史 (たに あつし)
パナソニック株式会社 デザインカンパニー AVCネットワークデザイン分野 AVCN第4開発グループ 主任意匠技師

新方式でも、最高のハードに

谷水:
「商品開発が本格的に開始する半年ぐらい前から、新しいタッチパネル方式についての研究を本社のR&D部門と一緒に進めていました。検討の結果、『投影型静電容量方式パネル』という方式でいくことになりました。

この方式ではボードの中に電極シートというものが入っていまして、等間隔で碁盤の目のように電極が配されているんです。原理的には、その碁盤の目のクロスのところが、一つ一つ電気を蓄えるコンデンサを構成していて、その容量の変化を利用しているわけです。つまり、網目のような電極には微量の電流が流れていて、何かが触れると、触れた部分だけ静電の容量が変わります。その数値を検出して、今、どこにペンや指が触れているのか位置を検出しています。

投影型静電容量方式とは?
ボード内の電極シートには、微量の電流が流れている。そこに電子ペンや指が触れると、その部分だけ電気的な数値に変化が生じる。その変化を素早く検知する仕組みだ。
投影型静電容量方式パネルの仕組み イラスト

電子黒板の位置検知の方式自体はたくさんあります。

A社の場合:
抵抗膜方式。薄いフィルムが2枚重なっており、ペンが触れることでフィルム同士がくっつく、その部分を検知する。

B社の場合:
ボードの裏側にコイルが巻いてあり、そこに発生する磁界の変化でペンの触れた位置を検知する。

しかし、電子ペンなのか、指なのか?あるいは、複数の人が触っているのか?を検出したいなら、私たちが開発した方式が一番いいだろうと思います 」

タッチパネルを実現するために一番苦労したのは、「タッチ感度の均一化」。等間隔で網目上に電極が張り巡らされているボード上では、電極と電極の間や交点など、タッチする位置はいろいろ。それによって感度が違っては正確な認識はできません。そこで、タッチしたポイント1ヵ所だけで判断するのではなく、周囲の数ヵ所の感度数値を使用して判定することにより、精度を高めたのだそうです。

この方式なら、加えてボード面自体の堅牢性も実現できるのですね?

谷水:
 「そうです。A社の方式ですと、触った時に簡単に動くようなフィルムでないといけないので、強くできません。B社の場合は、強度は確保できるのですが、専用ペンでないと検知されない。指では無理なんですね。

ボード面が強くて指でも操作できてという方式は他にもあるんですが、それを操作エリアの制限はほとんど無く、2人、3人同時に操作できるというのが、パナソニックの特長ですね」

谷水さんに、実際にパネルのシステムを開発した部屋に案内していただきました。ここにはタッチパネルのタッチ感度を決定するために何度となく行われた、実験装置が置かれています。


タッチ感度の設定を決めるために使われた実験装置。

タッチパネルのLSI 写真
電子黒板のサイズで、高精度なタッチパネルを実現するには、大規模な装置が必要になるところ。それを小型化し量産化するため、自社でLSIを開発するところから取り組んだそうです。
ボードに手を置く田中氏 写真
ボード上に手を置いてみると、接続しているPCの実験用ソフトに手の形が浮かびあがる。しかし、このサイズの面積は指やペンとは認識されないそうです。

先生や子ども達の「生の声」をデザインに盛り込む

実は皆さん。このUB-T880は、2010年度のグッドデザイン賞を受賞しているんです。

審査員の方たちからも、「・・・3人が指で同時に書ける機能は、共同作業のわくわく感を誘発する」 また、「電子ペンを使ったときに、使用できる描画メニューは、大人と子どもの身長差にも配慮されていて、個人ごとのエリアの近くに表示するなどインターフェースの心配りが嬉しい」 さらに、「抑えがちなやわらかなフォルムの外観はシンプルな中に品を感じさせる」 との高い評価を得たとのこと。そんな優れたデザインをカタチにしたメンバーのお一人がデザイン担当の谷さんです。

谷:
「これまで私はオフィスで使われる複合機などの情報機器のデザインを担当してきました。オフィス用品という自分に身近な製品に携わることが多かったのですが、今回のUB-T880は、教育の場で先生や子ども達が使うもの。かつては自分も生徒の一人でしたが、こんな魔法のような電子黒板などもちろん無かったわけで、使う人のことも、使われる状況についても、まったく未知の世界に近かったんですね。ですので、実際のユーザーとなる現在の先生や子ども達の感覚をつかむのに一番苦労しました。逆にいえばその点が一番楽しかった部分でもあるんですが」

谷さん達デザインチームは、まず市場を見ることからスタート。先に出てきた日本、イギリス、アメリカ、オーストラリア各国の学校、教室を見て回られたそうだ。

「イギリスでは、国の政策も相まって 7割もの教室に普及していますが、日本ではわずか数%。学校に1台あるかないかという状況です。また、パソコンが苦手という人達は、どの国にもおられました。あちこちで授業を見せていただき、そこでさまざまな『気づき』を得て、それをモノづくりのアイディアに展開していきました」

そこで谷さん達は、各国・地域の黒板の使われ方、教育に対する考え方が明確に違うことに注目します。

「黒板をどこまでメインで扱うか、国や地域によって本当に差があるんです。日本では黒板への板書中心に授業を進める先生が多いため、いざ電子黒板を導入することになっても、今あるアナログの黒板を残して、電子黒板は教室の左脇など、端っこにサブ扱いで置かれることになることが多い。一方、イギリスでは、先生はもともと黒板のそばに居ることが少ない。子どもの席の配置も、ズラッと全員が黒板の方向を向くのではなく、いくつかのチームごとに円を描いて座るなど、比較的自由なスタイルです。従って、電子黒板導入の際には、アナログの黒板はすっかり取り払われ、新しい電子黒板を真ん中に据えて使うのが主流です。こうした違いを知ることで、デザインの道筋もハッキリしたものになっていきます」

また、各国の子ども達の動きを見るうち意識したのが「安心・安全」であること。

谷:
「例えば、本体に飛び出している部分などがあったら危ないな、前面にボタンがありすぎるとぶつかったりするな、とか。また先生はボード面の左右どちらかに立つことが多いので、電子黒板ペンのトレイは中央に配置するのがいいなとか。前編でご紹介した『 ボード面のペン操作をしている場所どこにでも自由に表示できるメニュー』も、現場での電子黒板の使われ様を見ながら発想したアイディアのひとつです」

各地でチョークを使う先生の姿を数多く目にした谷さんは、チョークの代わりとなる電子ペンに一つ新たな機能を足したそうだ。

谷:
「チョークを使っておられる先生を拝見していると、授業中にちょっと書き間違ったら、指でチョチョッと消したりされていました。あ、その動作、もっともだな、と思って。それで、電子ペンでもチョチョッと消せる機能をつけようということで、おしりのダイヤル部分に消しゴム機能も付けたんです。こうしたアナログ時代と比較的変わらない使い方ができれば、パソコンが苦手な先生方でもスムーズに電子黒板に慣れていただけるかなと考えました」

こうして様々なアイディアを盛り込まれたUB-T880は、発売後、先生方からはもちろん、デザインの専門家からも高い評価を受けることになりました。

谷:
「私たちが考えてきたこと、目指してきたことが、先生や子どもさん達にわかってもらえた、喜んでもらえたという感慨でいっぱいです。グッドデザイン賞をいただけたことも嬉しかったです」

安心・安全という面で、私が感心したのが、機動力の良さ。頭上にプロジェクターを据えた大きなボードの割に、思いのほか高さが変えやすいのです。


ボード面の上下は油圧式ダンパーでゆっくり高さを変えることができる。

一番下まで降ろす時は安全ストッパーを外す仕組み。

最終的にはここまで低くできる。

谷:
「特に日本では、まだ各学校に数台、といった状況ですから、必要に応じて校内のいろんな場所に移動されて使っておられるところが多いんです。

ボード自体、使う人の背の高さに合わせて調節できるのですが、左右の安全ストッパーを外してもう一段低くすることで、教室の入り口からでも出し入れしやすくなります。このスタンドも私たちが設計を考え、パナソニック社内で製造しています」

次なる目標は、教材ソフトウェアの充実!

ここで、「ドイツにいるブレナンさんとテレビ会議をしましょう」ということで、また別の会議室へ。そこには「HD映像コミュニケーションシステム」という機器が用意されていました。

HD映像コミュニケーションシステムを介してドイツのブレナンさんと対面! 写真

これは、インターネット回線を通じて、映像と音声で会話ができるシステム。高精細なHD映像と、途切れのない高音質な音声で、 海外とでも円滑なコミュニケーションを図ることができるというパナソニックの製品です。

大画面テレビに映っているのは、遙か遠くドイツ・ウィスバーデンの会議室。前編でご紹介した動画に登場されているブレナン・ペイトンさんと、同じく欧州でインタラクティブ・ホワイトボードの営業を担当されている田中輝彦さんがスタンバイくださっていました。


HD映像コミュニケーションシステムの専用マイク。

右)
ブレナン・ペイトン

パナソニック システムネットワークス ヨーロッパ社
ゼネラルマネージャー

左)
田中 輝彦 (たなか てるひこ)

パナソニック システムネットワークス ヨーロッパ社
シニアマネージャー

緊張しながらも日本から挨拶。まるで、お互いすぐ近くに居てやり取りしているかのようなスムーズさで、会話を進めることができました。

ペイトン:
「この業界で、パナソニックのシェアはまだ小さく、やらなくてはいけないことは沢山あります。大手ライバル会社は、実は教育ソフトウェア制作がメインの会社ばかり。 彼らは非常に豊富なコンテンツを持っているんです」

ライバルがソフトウェア企業とは意外です。一歩日本の外を出ると、電子黒板を作っている企業の種類もずいぶんと違ってくるものです。

ペイトン:
「それではヨーロッパの教育がどのようなものか一例を見てみましょう。イギリスではほとんどの教室がインタラクティブタイプの電子黒板を持っています。子ども達はインターネットを使って宿題をやり、ネットで提出します。

パソコンは 3人の子どもに1台の割合で与えられています。また、パソコンを持たずインターネットも使えない家庭に対しては、政府が貸し与えています」

日本では電子黒板が1校に1台あるかないかという現状に比べ、イギリスはかなり進んでいるということですね。その他の国や地域はどうなのでしょうか。

ペイトン:
「ご存知の通りヨーロッパは非常に広く、それぞれの国/地域は完全に独立していて、自身の政府を持ち、教育方針を持ち、独自の言語を持っています。よって、それぞれの国/地域に合ったソフトウェアを提供していくということが、パナソニックがシェアを獲得していくうえで欠かせないと身を持って感じています。

すでに、スペイン、フランス、ドイツ、イタリアなどで政府がこの分野に投資をしています。ヨーロッパでは各国/地域とも、教育に投資をすることなしにグローバルで勝ち残っていくのは難しいと考えています。

フランス・パリの展示会の様子 写真
2010年11月にフランス・パリで開催された教育関係の展示会でも、UB-T880のブースは大盛況。子ども達も、その使い心地に興味津々。

パナソニックは、電子黒板のジャンルで言えば、ハードウェアの製造を得意とするメーカーです。多くのお客様に使っていただくためには、各国や地域に適応したソフトウェアを組み込むことが不可欠。そのために私たちは、教育ソフトウェア専門企業をパートナーにして独自のソフトを開発し、それをローカライズしていくという取り組みを行っています」

UB-T880が発売になって以来の、市場の反応や売れ行きは?

ペイトン:
「ハードウェアとしてのUB-T880は、大変好意的に受け入れられました。競合メーカー自身も、これはすごいと認めているほどです。私たちは市場でベストのハードを持っていると言えるでしょうね。とにかくソフトウェア開発への注力が急務とされているんです」

モノづくりに引き続いて、ソフトの拡充も欠かせないということですね。ペイトンさん、田中さん、ありがとうございました!

先生も、子ども達も、笑顔になる授業を!

おかげさまで、インタラクティブタイプの電子黒板について、かなりよく理解することができました。ハード的にはかなり素晴らしいものができており、あとは、それをどんなソフトウェア達と共に売っていくか・・・という状況。そして、これから少しでも多くの子ども達に電子黒板を用いた授業を体験してもらいたい、というのが皆さんの共通認識であることが感じられました。

斉藤:
「ソフトウェアを充実させていく課題は、各国/地域の教育方針などもからんでくるんです。例えば、国や地域によって、足し算引き算の教え方が全く違っていたりします。そういうことを、現地に合わせてカスタマイズしていく必要があります。

そもそもの言語の問題もあります。スペインはスペイン語が公用語ですが、実際、地方では、カタルーニャ語やバレンシア語など別の言語で授業が行われており、我々としてもそれぞれに対応したソフトウェアをご用意する必要があるのです。また各国・地域の教育委員会に認められ、商売をさせてもらうための働きかけも欠かせません」

ペイトンさんがおっしゃっていたローカライズの問題ですね。ちなみに、日本での普及はこれからどのように進んでいくんでしょうか?

「文部科学省でもICT (Information and Communication Technology) の重要性は理解しておられて、電子黒板の大幅な導入が行われました。話題になっている電子教科書の導入計画とも相まって、今後も注目されると思います。世界の各国/地域での使い方、日本での使い方など、違いはありますが、私たちも頑張っていきたいと思っています」

それでは最後に、UB-T880という製品の開発を通じて感じたこと、得たことなどをお教えください。

斉藤:
「先日もUB-T880を導入くださった学校にお伺いして授業を拝見したんですが、私たちの手がけた製品を目にする子ども達の目は、本当に生き生きしているんです。そういう笑顔に出会えた時は、本当に嬉しく感じますね」

谷水:
「新しいタッチパネル方式を量産化するにあたり苦労しましたが、関係部署が一丸となって実現することができました。世界中の多くの子ども達に使って欲しいですね 」

谷:
「製品をデザインする時に、それが使われる場所やシチュエーションについてよく知る、ということが非常に大切だなと改めて感じた仕事でした。これからもリサーチを続け、次のモノづくりに活かしていきたいですね」

最初に電子黒板と聞いた時は、これほど進化しているとは思っておらず、大変驚いた今回の取材。製品の最終的な目標が「子どもの学力向上」であるというのも夢がある話だなと感じました

皆さんが額に汗して創り上げたこの電子黒板が、世界中の学校の教室に送り届けられ、教育に貢献することを願いつつ、このあたりでお別れです。最後までお読みくださり、ありがとうございました。

(おわり)