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あ、カソウケンといっても科学捜査研究所のことではありません。「家庭科学総合研究所」、略して「カソウケン」なのです。研究所、と偉そうに名乗ってはいますが、構成員は家族4人。しかも、実質的に動いているのは私のみ、という弱小研究所です。





家庭科学総合研究所は(分不相応な)名前そのままで、家庭生活を科学することが目的です。「なぜドレッシングは分離するのに、同じく水と油からできているマヨネーズは分離しないの?」 とか、「洗剤がヨゴレを落とす仕組みはどうなっているの?」 なんてことを調べて、レポートしているのです。
私はそもそも科学が好きで、大学院の博士課程まで進学したのですが、結婚・出産など諸々の事情で専業主婦になりました。その専業主婦生活を始めてみたら惨憺たるもので……(遠い目)。その家事・育児を科学という視点で見て楽しめたらいいな、と家庭生活を科学することを始めた、という次第です。
こんな物好きな活動をしておりましたら、isMさんからお声がかかりました!


みなさま、そもそも圧力なべの存在はご存知でしょうか? 「何それ?知らない〜」というかたもいらっしゃるかもしれませんね。

ちなみに、私は「興味はあるんだけど・・・なんだか怖くて」なヒトです。ココロの中では興味津々で、遊んでみたくて、じゃなかった、使ってみたくてたまりません。興味津々な理由のひとつは、その科学的なリクツ! ほら、そこは「家事を科学する」カソウケンの女ですから〜。
圧力なべがどうスゴイのか。実はこんな事実があります。



どうです?スゴイでしょう??食材を素早く調理でき、丸のままいただける。それはつまり、栄養素をなるべく破壊しないまま摂取できる、ということでもあるわけで…。
をかなえてくれる、稀有な調理器具のひとつと言えるのです〜。


なぜ圧力なべは、普通のなべよりも時間を短縮して調理ができるのか?
それには「飽和蒸気圧」ってことがキーワードになっているのです。ああっ、ここで読むのやめないでください〜たいしたことがない話なので!
まあ、簡単に言ってしまえば、「飽和蒸気圧」とは、



ってことなんです。
ここでぜひ、みなさんが「液体」になったところをイメージしてみてください。ええ、液体になりきるなんて難しいけど、ここは頑張って液体になってみるんです〜。
沸騰というのは、液体が気体になって飛び出すことです。気体になるためには「熱」が必要です。このとき、まわりの気体の圧力が高ければ、飛び出しにくいですよね。だって、まわりからぎゅうぎゅう押されているのですから。 だから、まわりの気体の圧力が高ければ高いほど、沸騰しにくいってことはイメージできますよね。ほら、液体になりきった皆さまですもの!
まわりの圧力が高い場合、沸騰するために余分のエネルギーを必要とします。つまり、液体に、より高い温度が必要となるわけです。そうでないと、沸騰しないから、なのです。
逆に言うと、こういうことになります。

一方、いざ沸騰し始めてしまうと、その液体の温度はそこで上昇をストップしてしまいます。いくら熱を加えても、その熱は「液体が気体になるため」に使われて、「液体の温度を上げる」ことには使われないから、なんですね。
というわけで、通常のなべはまわりの気圧が1気圧(=大気圧ですね)のところで、せいぜい100度までの液体の温度で調理をしています。でも、圧力なべは、なんと大気圧の2倍まで、なべの中に圧力をかけることができるのです。
2気圧というと、なべの中の液体の温度はどれくらいになるでしょう? それは120℃です。「え、たった20℃高いだけ?」と思われる方もいるかもしれません。でも、この20℃って大きな差になるんですよおおおお。
ここまで読んでくださったみなさまにはおわかりでしょうが、「圧力なべ」って世間では呼ばれているけど、実のところ「高温調理なべ」なんですね。

さてみなさん。そもそも圧力なべって、ガスの火にかけて使うものだと思っていませんか? なんと、なんと、圧力なべには電気で調理する「電気圧力なべ」というものがあったんですね〜。
うーん、この私、恐ろしいことにこの年になるまでその存在をまったく知りませんでした! しかも調理器具フェチを自負していたというのにっ。……いえ、単に私が無知なだけなんでしょうけど(小学校時代から都道府県名も全部言えない常識の欠如っぷり)。
しかも、しかもですよ。つい最近できたわけでもなく、1号機は今から30年も前、1977年に発売されていたというロングセラー商品だったのです。うーん、ますますもって不覚!




そもそも、この電気圧力なべのルーツは「電気炊飯器」です。「玄米を早く、おいしく食べたい!」というニーズから生まれたのです。いかにも日本的な発想ですね〜。
ぬか、胚芽などがついたままの玄米には、ビタミンやミネラルなどの豊富な栄養素が含まれています。でも、炊く前に何時間もお水につけておかねばならなかったり、普通の炊飯器ではなかなか美味しく炊けない・・・っていう時代があったわけです。確かに、最近の炊飯器であれば「玄米モード」も用意されていますが、少し前まではそんな便利なものはなかったですから。
玄米をおいしく炊く技術を応用すれば、他の食品も、おいしく、早く調理できるのでは? ということで誕生したのがこの電気圧力なべだったのです。
最近では土鍋で炊飯するのも流行していますが、なんといっても電気炊飯器のメリットは

という手軽さでしょう。電気圧力なべにも同じことが言えます。スイッチを入れてしまえば、あとはほったらかし〜で良いのです。火加減を見ながら、なべの前でつきっきり、って必要がないっ! 忙しい主婦(夫)にはなんて嬉しい話でしょう。そして私のようなずぼらな主婦にとっても! 電気式ですから、もともとのコンロをふさがないで済むっていう利点もありますよね。

ほかにも、電気式のメリットとして、
というのもあります。
通常、ガス火式の圧力なべは「目標の圧力(温度)になってから=しゅーしゅーと鳴り出してから」、自分で火加減をチェックして、おもりをずらしたりして圧力を調整し、弱火で煮込んで、蒸らして・・・といった感じで時計とにらめっこしないといけません。
でも、電気式であれば、その「目標の圧力」は人間が判断しなくて良いのです。勝手にセンサーが判断して、出来上がりまで面倒を見てくれちゃうんです。
それに、この電気圧力なべには、圧力をかけない「煮込みモード」というのもあります。通常、圧力なべの調理の場合、途中で味を調節することはできないのですが、この煮込みモードを使えば、味をじっくり染み込ませることができるというわけ。しかもその煮込み時間も設定できるのですから、ほんとありがたい! これまた忙しい主婦にはなんて嬉しい話なのでしょう。そして私のようなずぼらな主婦にとっても!(しつこい?)
電気式であることの嬉しい点をもうひとつ。それは、
であること。ガス火式を使っていた人が電気圧力なべを使ったときに一番びっくりするのがこの「音の静かさ」だそうです。
そもそも、ガス火式に比べて電気式はなぜ静かなのでしょう?
ガス火式は、圧力のコントロールを調整弁でしています。つまり、なべの内部の圧力が高くなりすぎたら、弁から内部の空気を抜いて圧力を低くするんですね。それが、しゅーしゅーという音になります。この音があるから「ああ、圧力なべなのね」と実感できる場合もあります。
でも、この音はバカにできない大きさです。普通のガス火式圧力なべの場合、70デシベルという値。なーんて言われてもよくわからないですよね。騒音度でいうと「騒々しい事務所や、騒々しい街頭」くらいになります。事務所や街頭だったらまあ気にならないとしても、キッチンでその音だとちょっと……神経の細やかな赤ちゃんだったら泣き出しちゃうかもしれませんよね。
一方で、電気式は圧力を温度のセンサーで測定しながらコントロールしています。だから、基本的には「しゅーしゅー」言わせながら圧力を抜いたりする必要がない。というわけで、音も必然的に小さなものとなります。値でいうと最大値でも54デシベル。これもイメージできないですし「ガス火式とたいした差がないじゃないの」と思われるかもしれません。でも現実の場面と比較すると、「静かな事務所・始動時のクーラー」(50デシベル)というくらいの違いはあるのです。これくらいだったら、キッチンにある音として別に不自然じゃありません。逆に、「こんなに音がしないけど、ちゃんと圧力かかっているの?」って心配になるくらい。
さて、と。電気圧力なべの真実にせまるべく、いろいろ語ってまいりましたカソウケンの私。 まっ、あれこれリクツを並べてみても、実際に作ったものを食べてみなきゃ判断できないじゃないですか、ねえ。というわけで、次回は「変わらない形で愛され続ける電気圧力なべのヒミツ」を「食い気」という内田の超高性能センサー(?)とともに探ってみたいと思います!
内田 麻理香
(うちだ まりか)
1974年生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業。
東京大学大学院 工学系研究科 応用化学専攻修士課程修了。
同大学院 博士課程中退後、家事・育児を科学する架空の研究所「カソウケン(家庭科学総合研究所)」http://www.kasoken.com/ を立ち上げる。
現在は、東京大学工学系研究科/工学部 広報室特任教員として活躍中。
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