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第1話 燃やさないエネルギー

燃料電池って何でんねん?
プロローグ 第1話 第2話 第3話
第4話 第5話 第6話
第一話
燃やさないエネルギー 燃料電池って何?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん
燃料電池って何? コージェネレーションって?
なんで家庭用なの? ……数々の謎に満ちた「家庭用燃料電池コージェネレーションシステム」のことを教えてもらいに、燃料電池開発情報センターへやってきました。
ホームページによれば、燃料電池開発情報センターは、
燃料電池に関する技術開発や、燃料電池システムの導入・普及促進を目的とするサービス機関として、1986年に設立されたのだそうです。
 
電話で取材のお願いをすると、
技術部長の宮原純さんが、快く引き受けてくださいました。
「場所は、神田小川町の交差点のそば。1階に弁当屋の入っているテナントビルの5階ですから、すぐわかりますよ」と宮原さん。
ん? 開発情報センターと聞いて、なんとなく科学館っぽい建物を連想していましたが、弁当屋の5階?
 
ま、いいか。
 

電気と水と、水素と酸素の不思議な関係

当日、迎えてくれた宮原さんは、やさしそうな紳士です。
さっそく、基本の「き」からお尋ねしちゃいましょう。

三上美絵さん 顔   燃料電池って、どんな電池なんですか?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔 顔   ひとくちに「電池」といっても、いろいろな種類があるんですよ。(図1)
燃料電池は化学反応を利用して電気を取り出す「化学電池」の仲間で、水素と酸素の化学反応によって発電するしくみです。
理科の実験で、「水の電気分解」をやったことがあるでしょう?燃料電池で利用するのは、その逆の化学反応です。
三上美絵さん 顔   水の電気分解、ですかぁ? ……
ああ、試験管に溜めた水素にマッチで火をつけてポン!
っていう。(図2)
水に電流を通すと、水素と酸素ができる。
その逆ということは、水素と酸素を混ぜて、電気と水をつくる、ってことですか?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔 顔   そのとおり。
水の電気分解の実験をした後、試験管に溜めた水素側と酸素側のそれぞれの電極に、電流を流していた電池を外して代わりに豆電球をセットすれば、電球はちゃんと点灯しますよ。
つまり、水素と酸素が化学反応を起こして、再び水と電気に戻る。これが燃料電池の原理です。(図3)
乾電池や充電池と違い、水素という燃料さえ補給してやれば、ずっと自力で発電し続けることができるため、燃料電池と呼ばれているのです。
三上美絵さん 顔   原理は中学校の理科で習うレベル?! 思ったより、
シンプルなんですね。


性格の違う4人姉妹

燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   燃料電池は、電解質の違いによって、現在おもに4つのタイプが開発されています。
三上美絵さん 顔   ちょ、ちょっと待って。
最初からつまづいてるんですが、電解質って何でしたっけ?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   その中でイオンが移動する物質のことです。
「水の電気分解」の実験では、水酸化ナトリウムなどを混ぜた水を使ったと思いますが、この場合、水酸化ナトリウムが電解質です。純粋な水は電気を通さないので、電解質を加えるわけです。
三上美絵さん 顔   なるほど。それで、その電解質ごとに性格の違う燃料電池になるんですね。燃料電池4姉妹ってとこですね。
電池の種類(図1)(図2)(図3)一方、燃料電池の原理は・・・(図3)一方、燃料電池の原理は・・・
 
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   ええ。ジルコニア系セラミックスの固体酸化物形([1]SOFC)、炭素塩の溶融炭素塩形([2]MCFC)、リン酸を電解質とするリン酸形([3]PAFC)、 そして固体高分子膜の固体高分子形([4]PEFC)の4つです。(図4)
燃料電池の種類(図4)
 
    他に「水の電気分解の逆」の実験そのもので、水酸化ナトリウムを電解質とするアルカリ形(AFC)がありますが、主な4種よりも純度の高い水素からしか発電できないため、宇宙や深海などの特殊環境で使われるものにしか採用されていません。
 
 
三上美絵さん 顔   へえ。ジルコニアって、アクセサリーにも使われてますよね。“にせダイヤ”なんて、屈辱的なニックネームをつけられて。あんな硬そうなものでも、イオンが通るんですね。でも、電解質の違いによって、何がどう変わるんですか?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   一番の違いは、電解質の中をイオンが移動できる温度、つまり発電が開始できる温度です。これを「作動温度」と呼びます。[1]SOFC[2]MCFCでは、作動温度は650〜1000℃と非常に高温。電解質をこの温度にまで上げないと発電できないので、スタートまでに時間がかかります。一方、[3]PAFC[4]PEFCの作動温度は、常温から200℃程度までと低温です。つまり、発電開始までの時間が短くてすむ、ということです。
三上美絵さん 顔   人間でも、エンジンがかかるまでに時間がかかるけど、いったん勢いに乗るとすごい実力を発揮する「スロースターター」の人、フットワークが軽くて実行力のある、いわゆる“打てば響く”って感じの「クイックスターター」の人、いろんなタイプがいますもんね。ときどき、私みたいに後先考えずに走り出しちゃって転ぶ人もいますけど……。その作動温度の違いによって、得意不得意があるんですか?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   作動温度の高い[1]SOFC[2]MCFCは、発電効率が40〜50%と高いのが特長。発電と同時に出てくる「排熱」も高温になりますから、その熱で水蒸気をつくってタービンを回せば、さらに大規模な電力がまかなえます。しかし、運転時に電解質の温度を上げるのが大変なので、いったん作動したら長期間運転し続ける用途に向いています。たとえば、発電所や工場、高層ビルのコージェネレーションなどですね。
三上美絵さん 顔   陶芸で使う穴窯も内部温度は1000℃以上らしいですが、最初に薪をどんどんくべて、そこまで上げるのが大変だって、陶芸家の方がおっしゃってました。
  これに対し、[3]PAFC[4]PEFCの発電効率は、30〜40%程度とあまり高くはありません。しかし、排熱を給湯や暖房に使えば、発電効率と排熱利用効率を合わせ、エネルギー全体で見たときの統合効率は70〜80%になります。また、運転時に電解質の温度をあまり上げなくてもいいため、自動車、モバイル機器、家庭用などON/OFFを繰り返す使い方に向いています。
イラスト ジルコニアってアノ・・・
 

燃料電池は、クラブハウスサンド?!

三上美絵さん 顔   4姉妹はみんなもう、世の中に出まわっているんですか?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   いや、そうとも言えません。もっとも進んでいるのが[3]PAFCで、これはオフィスや産業用として、すでに実用化されています。[2]MCFCは最近、アメリカの企業が実用化に成功したところ。[1]SOFCは、まだ開発段階ですね。そして[4]PEFCは、耐久性や信頼性などの課題は残るものの、一部の自動車にはもう採用されているし、パソコン・携帯電話といったモバイル機器も近々実用化される見込み。来年から商用化される家庭用コージェネレーションシステムも[4]PEFCが使われるのです。
三上美絵さん 顔   出た! つまり、家庭用コージェネレーションシステムでは、固体高分子形の燃料電池を使うんですね。固体高分子って、どこかで聞いたような。……ゲ、赤ちゃんの紙オムツだ。たしか、紙オムツの吸水剤は固体高分子ですよね?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   固体高分子とは、まあ、平たく言えばプラスチックのことですな。紙オムツの吸水剤は、水分を吸収するとゲル状になる性質のプラスチックです。[4]PEFCでは、膜状にした柔らかいプラスチック(固体高分子膜)を電解質として利用します。陰極で発生した水素イオンがその膜を通過して陽極に移動し、化学反応を起こして発電するわけですね。固体高分子形の燃料電池は、4つのタイプの中でもっとも作動温度が低いので、頻繁にON/OFFを繰り返す家電製品にもマッチするし、装置を小型化することができるので、家庭用やモバイル用にはぴったりなのです。
三上美絵さん 顔   すべての家電製品が固体高分子形の燃料電池を搭載して、コンセントがいらなくなる……なんて時代も来るんでしょうか?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   燃料電池は直流ですから、交流の家電製品にはインバータで変換する必要があります。それによって効率は多少落ちるので、わざわざすべての製品の電源を燃料電池でまかなうというのは、あまり現実的ではないでしょうね。
(写真1)実用化や研究のすすんでいるもの
 
三上美絵さん 顔   固体高分子形燃料電池について、
もう少し詳しく教えていただけますか?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   固体高分子形燃料電池は、カーボン製の2枚の電極の間に、高分子膜が挟まった「セル」を1単位とします。
このセルに、陰極(燃料極)には水素を入れ、陽極(空気極)には空気を入れます。陰極の水素は電子と水素イオンに分かれ、水素イオンは高分子膜を通って陽極へ進み、空気中の酸素と反応して水になる。このときに熱も発生します。
一方、イオンと分かれた電子は陰極から陽極へ
流れ、電気が生まれます。
セル1つでは約0.7ボルトの電気にしかなりませんが、乾電池を直列につなぐように積み重ねることで、大きな電気をつくることができます。
燃料電池の本体には、たくさんのセルを重ねた「スタック」が入っているんですよ。セル50セットぐらいのスタックで、1kWの電気が作れます。(図5)
三上美絵さん 顔   うわ、パンと具が何重にもなったクラブハウスサンドみたい。食べるには、ちょっと固そうですけど。
ところで、世界で、燃料電池の開発が進んでいるのはどの国なんですか?
固体高分子形燃料電池(PEFC)の概念図(図4)
 
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   アメリカと日本が先頭を切っていますね。政府からも助成金が出ているし、一流企業が開発に取り組んでいますから。ヨーロッパでは、ドイツが比較的熱心です。
 
 

2つの難問を一挙に解決!?

三上美絵さん 顔   燃料電池って、他の発電方法と比べて、そんなにスグレモノなんですか?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   燃料電池は火を燃やすのではなく、燃料自体が持っているエネルギーを直接、電気エネルギーに変えることができるため、発電効率がとてもいい。火を燃やすというのは、実はけっこうエネルギーロスの大きい行為でね。ガスコンロでお湯を沸かすとき、まわりの空気も暖かくなるでしょう?
あれはつまり、エネルギーをロスしているわけです。
三上美絵さん 顔   効率がいいのはわかりますが、そもそも燃料電池って、なんで必要なんですか?
燃料電池開発情報センター 技術部長 宮原純さん 顔   地球の石油、石炭、ガスといった化石燃料が枯渇しかかっていることは知っているでしょう?火力発電も、自動車のエンジンも、石油ストーブも、化石燃料を使っています。
それに、化石燃料を大量に燃やすことによりCO2が排出され、地球温暖化の原因にもなっています。
一方、燃料電池は水素と酸素の化学反応によって電気をつくり出すので、化石燃料は使いません。
じつにクリーンなエネルギーです。
つまり、燃料電池は環境問題とエネルギー問題の両方を解決できる期待の星というわけですね。
三上美絵さん 顔   「燃料」なのに、燃やさない。なのに、「燃料」電池。
なんだか混乱しますね。
でも、環境問題とエネルギー問題をイッキに解決できるなんて、ホントでしょうか。そんな虫のイイ話があるなんて。エコロジーにかけては疑心暗鬼な私としては、にわかには信じられません。
 
それに、宮原さんのおかげで、燃料電池のしくみはわかったけれど、肝心の水素は、どこから持って来るんでしょう?エコカーでは街に水素ステーションができて、そこで補給するって聞いたことがありますが、家庭用となるとそうはいきません。
プロパンガスみたいに、水素ボンベを庭に置くの??
それはちょっと怖い気が……。
その疑問は次回、宮原さんにぶつけてみましょう。
    図表出典一覧:
(図3,4) 東京ガスHP内「なるほど!燃料電池」を参考に作成。
(写真1)日経BP社「燃料電池2004」より。
(図5) 日経BP社「燃料電池2004」を参考に作成。
イラスト エネルギー問題の期待の星
 
第2話ガスから電気が???
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