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熱志のレゾナンス
第1話 喝采
第2話 決起
第3話 旅立
第4話 過忙
第5話 光明
第6話 歓喜
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第6話 歓喜
  
2002年9月27日。この日は、DVX100の確認会議の日だった。確認会議とは、新製品を品質保証部門の担当者が客観的な視点で非常に厳しくチェックし、市場へと送り出すのにふさわしい品質を備えているかどうかを確認する場。つまり製品の最終関門である。ここで、不具合が「確認」されると、製品を市場に出すことができない。99%そんな事は起こらないのだけれど、残りの1%に不安が募る。今まで、何度も確認会議を経験して来たけれど、今回はいつになく緊張していた。それほど、私にはDVX100に対する強い思い入れがあったのだ。
 
私は、少し早めに会場となっていた大会議室に出かけた。三脚に据えつけられた1台のDVX100に並んで、画質比較をするための他社のビデオカメラが3台、合計4台のビデオカメラが広い会場の隅に置かれていた。今まで私は、DVX100を開発スタッフの目で見てきたのだけれど、この時は、開発が一段落したせいもあって第三者的に見ることができた。「他社モデルと比べても見劣りしてないじゃん。いや、いちばんカッコいいよ」 冷静な目で見てもDVX100のデザイン的な出来は上々だった。私は想像してみた。これを初めて手にした人は、どんな笑顔で迎えてくれるんだろうか。撮った映像を見るとき、どんな仕草で喜んでくれるのだろうか。想像した笑顔や仕草は満足であふれていた。DVX100を目の前にして、満足している自分の姿が重なっていたのだろう。
 
私は、ふと外の風景に目を移した。曇っていた。雲の表情は、1年半前の企画会議の日と同じように思えた。「そういえば、あの日も曇りだったよなぁ」 あの時、天候は冴えなかったが、企画会議の結果は、まあ満足できるものだった。「これなら、今回もきっとうまくいく、DVX100は売れる」 私の胸の中は期待でいっぱいになった。
 
私がひとり、もの思いに耽っている間、ぽつりぽつりと会場には人が集まってきていた。通常なら開発や製造の責任者が数名集まる程度だけれど、今回は最近まれにみる大型の開発プロジェクトだったので出席者は、いつもより多い十数名くらいになるかな、と思っていた。しかし、私の予想は見事に外れた。ぞろぞろと続く人の波。会議がはじまる頃には百数十名ほどの人々が会場につめかけていた。そこには、ビジネスユニット長やシステム事業グループ長などの経営責任者、プロジェクトの幹部スタッフをはじめ、チームの責任者、各担当メンバー、営業マン、そして工場のライン担当者、CCD事業部の担当者まで、このプロジェクトに携わった人たちが、ほぼすべて参加していた。みんな、DVX100のことが気になっていたのだ。これほど多くの人々の関心を集める新製品は、ここ数年、ほとんどなかった。それほど、このモデルに寄せるみんなの期待は大きかったのだ。
 
午後1時、確認会議は定刻通りはじまった。品質保証部門の担当者がホスト役を務め、私の全体コンセプトのプレゼンテーションで幕を開けた。私は、DVX100のターゲットや市場、機能などをさらりと説明し、バトンを望月さんに渡した。彼が担当したのは24Pモードの解説。実際にDVX100の24Pモードで撮影した映像をプロジェクターを使って100インチのスクリーンに映し出し、解説を行った。百聞は一見にしかず、だった。「ほぉ…」 会場に集まった人々から嘆息がもれた。困難を承知で搭載を決めた望月さんの技術者としての面目躍如の瞬間だった。彼の顔から笑みがこぼれた。
 
確認会議のメインディッシュは岩井さんにお願いした。他社モデルとの画像比較をしながらの実演デモ。DVX100の画質の高さ、美しさを実際に見比べて実感してもらおうという趣旨だった。「確かに、これはちゃうわ」 経営責任者や幹部スタッフも思わずイスから腰を浮かせて、この映像を見ていた。私たちの報告を聞いてはいたものの実際の映像を目にしたのは初めてだった。彼らは、想像以上のクオリティに目を瞠った。驚いていたのだ。会場全体がざわめきはじめた。会場の後ろの方で待機していた私は、望月さんと目を合わせた。私たちは、何も言わずに、ただ深くうなずきあった。視線を交わすだけで、すべてが伝え合えていた。
 
「やっと、ここまで来たんだなぁ」 頭の中に、これまでのいろんなシーンが甦ってきた。食堂でブレーンストーミングの構想を熱く語っていた望月さんの表情、映画の話をしている時の並川さんの少しはにかんだような横顔、チームのメンバーに檄を飛ばす岩井さんの大きな声、ラフを書くことに没頭しているときの三木さんのまるまった背中、ブレーンストーミングの際、つかみあいになった営業担当者たち…。浮かんでくる、どのシーンにも真剣なまなざしの人たちがいた。みんなの熱い意志があったからこそ、今日を迎えることができたんだ。私は、素直にそう思った。
 
望月さんが、私に声をかけてくれてから2年近くの時間が過ぎようとしていた。あの時、私たちは、共鳴=レゾナンスしたのだ。音叉のひとつを響かせ、鳴っていない同じ高さの音の音叉に近づけると、なにもしていないのに響き出す。そんな共鳴現象が私たちに起こった。モノづくりに対する熱い意志の共鳴は、まず私を響かせ、そのあと部署を超え、次々と社内に伝播していった。その共鳴は、いつしかひとつの大きなうねりとなり、塊となった。そして、ついにDVX100が生まれた。このボディの中に、そして画像の中に、私たちの熱志が共鳴=レゾナンスし続けている。
 
「DVX100の出荷を可とします」 私たち開発スタッフからの説明が済んだ後、品質保証部門の担当者が高らかに宣言した。その時だ。かつてない出来事が目の前で起こった。DVX100に誰からともなく拍手が贈られはじめたのだ。最初は一部だったが、除々に拡がっていき、ついには百数十名の拍手が会場内に大きく響き渡った。パチパチ、パチパチ…。会議の終了が告げられても、みんな立ち上がったまま、拍手をやめようとはしなかった。拍手も共鳴現象を起こしていたのだった。会場はクライマックスを迎えたコンサートホールのような雰囲気で満たされていた。
 
新製品の新発売の際、かつては出荷式というものが行われていた。いわゆる初めての出荷をみんなで見送る儀式である。製造がまだまだ人力に頼っていた頃だったので、手塩にかけた娘を送り出す父親のような気分で、多くの関係者が出席していたという。当時は、新製品を積んだトラックにリボンを架け、大漁旗や万国旗で派手にディスプレイして盛大に式を執り行ったらしい。一種のお祭りだったのだ。
 
私は放心状態だった。こんな確認会議を経験したことがなかったからだ。感動していた。形態こそ違うが、今回の確認会議は出荷式が行われていた頃の感動を取り戻していたような気がする。私は、これまでDVX100への想いに関しては誰にも負けないつもりでいた。でも、その想いは関係者全員に共通した気持ちだったのだ。みんなとひとつになれたような気がした。こんな想いもはじめてだった。今まで私にとってモノづくりは賃金を得るための手段に過ぎなかったのかもしれない。でも、今日この日を境に気がついた。この感動を得るために、この満足を感じるために、私はモノづくりに携わっているのだ。そのことをDVX100は教えてくれた。「ありがとう」 私は心の中でそうつぶやいた。
 
デビューしたDVX100は、大きな反響を呼んだ。10月10日の正式発売日を待たずにバックオーダーが1,000台を超えた。また、ファンのひとりがプライベートでホームページを立ち上げてくれた。このサイトには、さまざまなDVX100情報が寄せられている。除々にだけれど、私たちの「熱志のレゾナンス」は、映像クリエーターをはじめユーザーの間にも確実に響きはじめている。でも、まだまだ楽観はできない。新製品というだけで注文が来ている可能性もあるのだ。不安がまったくないわけではなかったが、私はDVX100に自信を持っていた。百数十名の熱い意志がDVX100の後ろで共鳴している。ひとつになった想いは、必ず夢をかなえるはずだ。「熱志のレゾナンス」が市場に新しい風を吹かせるのだ。
 
確認会議の、あの拍手の音を忘れない限り、また次も私たちはひとつになって真剣にモノづくりに向かうことができる。今日も明日も、私たちは、私たちの意志で、ユーザーのためのビデオカメラを開発し続けていく。
 
デスクの電話が鳴った。私は急に現実に戻った。「はい、石井ですが。え、resfestの事務局から電話が入っている?つないでください…」 受話器を握ったままの私の目の前には、10月の澄んだ夕焼け空が広がっていた。
 
(おわり)
 
取材・文:森 敬典 (FOREST)
 
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