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※過去に掲載された記事になります。内容は公開時のものであり、最新の情報とは異なる場合がございます。

熱志のレゾナンス
第1話 喝采
第2話 決起
第3話 旅立
第4話 過忙
第5話 光明
第6話 歓喜
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第4話 過忙
  
企画会議から2週間ほど経った2001年4月下旬。裁定が下った。商品企画にゴーサインが出たのだ。これからの具体的な開発作業のことが少し気がかりではあったが、私たちの想いが受け入れられたことがなによりもうれしかった。「こりゃ、えらいことになったなぁ…」 望月さんは、少し困ったような表情をしながら言った。しかし、目は笑っていた。私を含め、みんなが喜色満面だった。
 
2001年4月27日に、とりあえずのプロジェクトチームが結成された。そこには、ブレーンストーミングのメンバーも含まれてはいたが、とりあえずという前置きが必要なチームだった。例えば、設計チームのメンバーは、望月さんをはじめみんなが据置型VTRのエキスパートではあったけれど、ビデオカメラの開発を単独でコントロールした経験がなかった。作業を進めるには、プロジェクトチームに参加していないカメラチームのサポートが必要だった。チーム編成に無理があったのだ。それは、まるで片翼のエンジンが動かないまま離陸した飛行機のようなものだった。カメラチームなら、何も問題ないような事が、経験のない設計チームには重大な障壁になる。その度にカメラチームに出向いてアドバイスを受けなければならない。当然、思うようなスピードで作業を進めることができなくなる。プロの設計者としてのプライドも傷つく。メンバーたちにストレスが積み重なっていった。「どないしたらええんや!」 「そんなことわからへん!」 プロジェクトチームには、ほんのささいな口調のもつれで、どなりあいがはじまるような険悪なムードが漂いはじめていた。
 
2002年モデルの開発は根本部分での問題も抱えていた。普通、ビデオカメラの開発は、まずCCDの選定からスタートする。CCDを決めてからレンズやVTR部などのメカニズム、そして全体のデザインなどの機能・仕様を決定していく。CCDの選定は開発の核になるキーエレメントそのもの。車で言えばエンジンのようなものなのだ。時間に余裕があればCCDを新規開発してから機能やデザインを決めていってもいい。でも、今回はそんな悠長なことを言っている時間はない。CCD開発には膨大な時間と手間とコストが必要になる。できれば既存のものを使いたい。しかし、私たちはCCDを決めかねていた。というのもこの時点で「手持ち・高感度・高画質・プログレッシブ」という基本仕様を決めていたからだ。それに則って、業務用として満足できるレベルの画質を求めるなら放送局用の1/2インチCCDが適していた。しかし、大きい。手持ちできるコンパクトサイズに収まるか疑問だった。逆に民生用の主流になっている1/4インチならコンパクトにまとめられる。が、基本仕様にかなう画質を得ることはできない。どちらを選んでも帯に短し、たすきに長しだった。基本仕様の達成を考えると私たちは悩まざるをえなかった。
 
デザインチームに負担をかけることになったが、私たちはモックアップを作って検証してみることにした。1/4インチタイプは画像のクオリティの理由により候補からはずし、1/2インチと1/3インチの2タイプのモックアップを作ってもらった。従来ならCCDは決定済みなのだから、こんな工程は発生しない。過酷な日程の中、デザイナーは悲鳴を上げながらも、より道の工程を進めてくれた。検証の結果、1/2インチのCCDでは、やはり大きすぎることがわかった。残された選択肢は1/3インチCCDしかない。それが、また問題だった。1/3インチCCDは、かつては主流だったが今では製造されていないのに等しい。まったく一からの開発ではないにしても、私たちが目指す基本仕様に見合ったスペックを持たせるためには時間と手間とコストのかかる再開発が必要になる。しかも、CCDの完成を待って仕様やメカニズム、デザインの開発に移行するような時間はない。でも、私たちは既存のもので辻褄合わせをするような妥協は決してしたくなかった。定石を当てはめる開発ではプロジェクトを成功に導くことはできない。CCD開発と仕様・デザイン開発を同時進行させるという、無謀とも思える当社はじめてのチャレンジがはじまった。
 
2001年6月。プロジェクトチームに画期的な転機が訪れた。ひとつは、設計チームへのカメラチームの合流。これは、チームリーダーの岩井さんをはじめ、みんなが「合流したい」と上層部に何度も掛け合ってくれて、やっと実現した。もうひとつはデザインチームへの三木さんの参加。彼は民生用の部署に所属していて、ブレーンストーミングには参加していなかったけれど、業務用ビデオカメラのフラッグシップモデルづくりがはじまるという噂を聞きつけ、自ら上層部に頼み込んでチームに加わってくれた。みんな、自分がつくったんだと将来も誇れるようなビデオカメラをつくりたい、という夢を持ってプロジェクトチームにやって来た。夢が才能を引き寄せたのだ。プロジェクトチームは、私たちが求めていた姿に近づいてきた。自らの熱い意志で自ら活動する統一された有機体に変わりはじめていた。少しずつではあるが、私たちの「本当のモノづくりをしよう」という想いは方向を定め、まとまった大きな力になろうとしていたのだ。
 
6月には、もうひとつ大きな出来事があった。ついにCCDの正式発注にこぎつけたのだ。私たちは1ヶ月ほど前からCCD事業部に対して開発の打診をはじめていた。しかし、復古的な1/3インチCCDの開発に対して彼らは懐疑的だった。「本当に売れるビデオカメラなのですか、ちゃんとCCDの数は、はけるんでしょうね。商売にならないものはつくれませんよ。」 彼らは、明らかに私たちに疑いの目を向けていた。グループ会社とは言うもののCCD事業部は別会社である。一企業であるのだから、利益が見込めないような仕事を受注できるはずがない。心情だけでビジネスを成立させることはできないのだ。気持ち先行の私たちは、想いが通じさえすれば…という甘い期待を持っていた。しかし、現実は厳しかった。私は望月さんと岩井さんとともにCCD事業部への日参を繰り返し、その度に、こう言い続けた。「月に3,000台は売ります。」 それはまったく希望的な数値だった。しかも担当者レベルでの勝手な言い草に過ぎなかった。CCD事業部の担当者は、それを暗に感じているのか、なかなか首を縦に振ってくれなかった。
 
交渉が進まない状況の中、私たちは奥の手を使うことにした。「上」を担ぎ出すことにしたのだ。自分たちの手で、なんとか契約に持ち込みたかったが、企業対企業の問題になると難しいものがある。そこで望月さんが直接、上層部に掛け合ってくれた。2002年モデルには、どうしても高性能の1/3インチCCDが必要であること、このモデルが市場を活性化させる高い可能性を持っていること、発売後の売上見込み…。彼は、時にハッタリを交えながらも上層部を根気強く口説き続けた。最初は「CCDまで新しくつくるのか?」と呆れ顔だった上層部も彼の熱意に押し切られた。望月さんの努力で、上層部の理解が得られたのだ。6月27日、トップ間の交渉が行われ、やっと正式発注の契約を取り付けることができた。2002年モデルのプロジェクトは、また一歩大きく前進した。
 
デザインチームも精力的に動いていた。民生用しか担当したことのなかった三木さんは、業務用の知識を得るために、プロのカメラワークをレクチャーするセミナーに参加したり、放送局用機器の展示会にこまめに足を運ぶなどして、積極的にさまざまなノウハウを吸収していた。その気迫は普通なら3年かかることを半年でやってしまうくらいの勢いだった。「業務用のビデオカメラをつくることは、ずっと入社以来の憧れだったんですよ。まるでF1のエンジニアみたいでしょ。なんか、やりがいを感じるんですよね」 彼は遠くを見つめながら、よくこう言っていた。その熱意は、確実に彼の仕事に表れていた。何枚もラフスケッチを描き、それらを自らボツにし、何度も何度も描き直した。時には映画のヒーローが持つアイテムから、時にはトレンドグッズから、さまざまなヒントを引き出し、デザインに反映させた。彼のデスクの上には、彼の大きなからだを覆い隠すほどにラフスケッチの山ができていた。
 
プロジェクトは、リズミカルに動いていた。チーム内には活気がみなぎっていた。しかし、肝心なことが抜けていた。4月9日の企画会議で、私たちが提案したDVフィルムメーキングという新たなターゲットへのアプローチ…そのための具体的な仕様がいまだ決まっていなかったのだ。このまま開発が進めば、順調に2002年モデルは完成するだろう。しかし、それでは、このモデルは私たちの自己満足で終わってしまう。企画会議で上層部から投げかけられた一言が私の頭をよぎった。「それで、この商品は売れるのかね?」 そうだ、DVフィルムメーキングを楽しむ映像クリエイターに訴えかけて受け入れられるような商品に仕上げなければ、2002年モデルは売れないだろう。市場に新しい風を巻き起こすようなパワーを持たすことができなければ、私たちのこれまでの努力は泡のように消えてしまうだろう。私たちがつくりたいビデオカメラとは、売れる商品に違いないのだ。しかし、最も肝心なキーエレメントが、まだ見つけられていなかった。私たちは、それを模索しながら開発を進めるという、苦しい道のりを選ぶ他なかった。一見順調に見える開発作業は、大きな課題を抱えたまま、先へ先へと押し流されていたのだ。
 
(つづく)
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