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熱志のレゾナンス
第1話 喝采
第2話 決起
第3話 旅立
第4話 過忙
第5話 光明
第6話 歓喜
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第1話 喝采
  
照明が落とされると会場のざわめきが消えた。張りつめた空気を感じながら、私はステージに向かった。2002年11月21日、東京・原宿ラフォーレ。ショートフィルムの映画祭「resfest 2002 Japan 」の初日。その最初を飾るワークショップ。それが、私とDVX100に与えられた舞台だった。
  
ショートフィルムとは、ここ数年話題となっている短尺映像作品の総称だ。3分から5分、長くても30分程度の映像で、ジャンルは多岐にわたり、その歴史も多様である。例えば『短編映画』。1950年代のヌーベルバーグの頃から、ヨーロッパでは新たな才能の発掘の場であり、アメリカではハリウッドの長編メジャー映画の登竜門であった。粘土の人形をコマ撮りし不思議な映像世界を創り出す『クレイアニメ』も多くは短編だ。また、1980年代に生まれた『ミュージックビデオ』の中には、楽曲のプロモーションというよりもひとつの映像作品というべき名作が存在する。『CM』も然りだ。一方、日本では『実験映画』や『自主制作映画』が、アート表現や才能発掘の場として1950年代以降脈々と息づいてきた。こうした、様々なスタイルで作られていた短尺の映像たちが、今やひとつのムーブメントとして、ショートフィルムという名前で呼ばれるようになったのだ。
  
ショートフィルムの文化が近年急に熱くなり、ひとつのムーブメントにまでなったのには理由がある。それは「デジタル技術が急激に進化した」こと。いかに短編とは言え、これまでは数多くのスタッフが膨大な時間をかけて制作しなければならなかった。しかし、ビデオカメラやコンピューターの急速な発展によって、制作はより安価に、表現はより自由にできるようになってきた。一方、デジタルはインターネットのブロードバンド化やテレビの多チャンネル化をもたらし、作品発表の機会も広げている。デジタル技術の進化が、制作環境と視聴環境の両面でショートフィルムを盛り上げているのだ。
  
こうしたショートフィルム・ムーブメントの成長に大きな役割を果たしてきたのが「resfest」である。既にこの世界で名を馳せた者、頂点を目指しチャンスを狙う者、これからこの世界に飛び出そうと期待を胸に秘めた者、単純に作品を楽しむ者…。映像に興味を持つさまざまな人たちにとって、1990年代半ばにサンフランシスコで誕生したこの映画祭は、まさにハレの舞台、憧れのステージとして権威ある存在となった。特に「resfest 2002 Japan 」は、ショートフィルムへの注目が高まる中、日本からのエントリー作品も増え、映像イベントとしてのボルテージが最高潮に達していた。
  
そんな盛り上がりの中、resfest 2002の主催者は開催するワークショップのテーマのひとつとして、私たちのDVX100を選んだ。パナソニックがresfestのグローバルスポンサーであることとは関係なく、ショートフィルムにターゲットを置いた初めてのビデオカメラとして紹介したいという。そのオファーが入ったとき、正直言って私たち開発チームは最高の栄誉を与えられたと喜んだ。そして、誰がそのステージに立つかを決めることになった。みんなの視線が私に注がれた。「やっぱり企画推進リーダーの石井さんでしょ」とみんなの目は語っていた。しかし、ワークショップと言えばクリエイター向けの企画である。オーディエンスは、DVX100のメインターゲットであるショートフィルムのクリエイターたちが中心となる。今まで商品説明のプレゼンテーションは数多くこなしてきたが、制作現場の人たちに対してではなかった。知識も経験も豊富な撮影現場のクリエイターを相手にすれば、どんな質問や望が飛び出してくるかわからない。そんなステージに立つのは、相当のプレッシャーがかかる。私は躊躇した。
  
幼い頃、私はブロック遊びが好きだった。いろいろなパーツを組み合わせ、頭に描いたモノを実際の形にしていく。理想の姿になるまで休みもせず何度も何度も作り直した。完成品は兄弟や友人にプレゼントした。喜ぶ顔を見るのがうれしかったのだ。でも贈るときはいつも不安になった。あの人は笑顔で受け取ってくれるのだろうか…。しかし、いつもみんな、私の『作品』を喜んでもらってくれた。そんな幼い頃の記憶が、迷っていた私を振るい立たせてくれた。勇気をくれた。そうだ、DVX100は、あのときのブロックと同じじゃないか。ほんとうに満足できるレベルにまで仕上げ抜いた『作品』なんだ…。私はワークショップの出演を引き受けることにした。
  
「DVX100の商品企画を担当された松下電器・システムAVビジネスユニット・マーケティンググループの石井隆さんです」 ワークショップのナビゲーターを務める映像雑誌編集長が私を紹介した。いよいよ真価が問われる時がやって来たのだ。私はコンセプトから説明しはじめた。「DVX100はショートフィルムのクリエイターをメインターゲットとした “シネマライクな映像が撮れるデジタルビデオカメラ”です。ではまず、シネマライクな映像表現を実現した3つの機能のうちのひとつ『24Pモード』について…」
  
会場の人々は静かに耳を傾けていた。その表情からは、どれくらい興味を持って聴いているのか測ることはできなかった。わたしの胸に、またムクムクと不安が膨らんできた。口が渇き、目の奥がジンジンしてきた。言葉が冗長になり、早口になった。私の焦りは会場全体に伝わっていたかもしれない。
  
「では、私たちの話ばかりでも恐縮ですので、24Pモードで撮った映像のダイジェスト版をご覧ください」 ナビゲーターの声に続いて、実際にDVX100で撮影したショートフィルム作品の上映がはじまった。今まで噂でしかなかったシネマライクなデジタルビデオ撮影映像を初体験してオーディエンスは目を見開いた。今までにはない深みのある映像の雰囲気が明らかに伝わっていた。彼らの瞳が満足感で輝きはじめた。その表情をひとつひとつ確かめているうちに、私の焦りは少しずつ霧散しはじめていた。
  
「それではこの作品の実制作に携わったスタッフの方々をお呼びしましょう」 プロデューサー、監督兼カメラマン、照明デザイナーの3名がステージに現れた。私自身、実際の撮影現場の声を聴くのは、はじめてだった。果たして、私たちのDVX100は映像に対する彼らショートフィルムのプロたちの情熱に応えられたのだろうか。私にとって最も緊張するコーナーがはじまった。
  
「2002年5月のある映像展でDVX100を見せてもらって、ぜひこのビデオカメラを今回の作品に使ってみたいと思ったんです。が、まだ生産前ということでクランクインをずらして待っていたんですよ」 プロデューサーが語った。続いて監督兼カメラマンが発言した。「実はDVX100がクランクインの日に間に合わなかったので一日目は他のビデオカメラでとりあえず撮ったんです。が、どうしてもビデオ感が否めなくて…。今回も在りがちの作品になるのかな、なんて思っていたんです。でも、二日目にやっとDVX100が届いて、それを使いはじめたとたんシネマライクな画像が撮れて。これはいけるじゃん、って」 DVX100がスタッフの笑顔を生み、連帯感を高め、作品への創作意欲をも盛り上げてくれた、と彼は喜んでいた。続いて、監督兼カメラマンは実際にステージ上にセットされたDVX100で観客席を映し出した。そのシネマライクな映像を見てもらいながら、私はその映像の特長をきめ細かく紹介した。照明デザイナーも「今回の作品ではフィルターなどを使って新しい色表現に挑戦したんですが、DVX100だと思ったとおりの色で撮れるんですよ。今までのビデオカメラだと“ちょっと違うな”っていうことが多かったんですけどね」と、笑顔で語った。その後も画質をはじめ操作性やレンズに至るまで、彼らの満足の言葉が続いた。  
  
3人がステージに登場した瞬間には「やばいな」という気がしていた。打ち合わせもなく、どんな発言が飛び出してくるか想像もつかなかったからだ。でも、実際は満足感あふれる発言が続いた。そこには、いくらかのリップサービスも含まれていただろう。しかし、私は現場のナマの声に感謝の念を覚えた。「撮る人を“その気”“本気”にさせてくれるビデオカメラですね。実はこの作品はDVX100をレンタルしてもらって撮ったんですが、撮影後、あまりに気に入ったので個人的にほしいな、と思ってます!」 彼らは、そんな言葉でコーナーを締めくくった。
  
私の胸に渦巻いていたモヤモヤはすっかり消え去り、気分はクリアになった。不安は杞憂だった。「ショートフィルムのクリエイターをメインターゲットにして、創りたいビデオカメラを創ろう!」それを合言葉にしたDVX100プロジェクトの考えは正しかったのだ。
  
約1時間30分にわたるワークショップが幕を閉じ、会場は拍手で覆われた。ショートフィルムへの熱いムーブメントが追い風を吹かせてくれた…。私たちの想いとユーザーの想いが、いまひとつになっている…。この拍手がDVX100の成功を確信させてくれた…。喝采に包まれながら私は思った。ステージから降りるとたくさんのオーディエンスに囲まれ、質問攻めにあった。「どこで入手できるのか」「24Pモード編集の将来性はどうなのか」などなど、次々と発せられる声。その問いに答えながら、私の意識は2年前のあの日にタイムスリップしていた。モノに関わるすべての想いがひとつになることの大切さ。そしてその難しさ。それを教えてくれた時間が、私の中に蘇ろうとしていた。
  
(つづく)
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