プレスリリース
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2009年12月7日
モータの低損失駆動を実現し、省エネルギー化に大きく貢献
世界初、GaNパワートランジスタを用いた高効率ワンチップインバータICを開発
 (高効率 GaNインバータIC データ容量:103KB)
【要旨】
パナソニック株式会社は、省エネルギー化を実現するパワーデバイス[1]材料として期待される窒化ガリウム(GaN)[2]によるインバータ[3] ICを開発しました。本ICはそれぞれ独立に駆動できる低損失GaNトランジスタをワンチップに集積化することで、高効率モータ駆動を実現しました。本インバータICは民生機器におけるモータ駆動をはじめ様々な応用分野への展開が可能です。
【効果】
開発したインバータICはチップ内部で6個の横型GaNトランジスタを電気的に絶縁することで、ワンチップによるインバータ動作が可能となりました。複数個のチップを用いた従来のSi系インバータICに比べて低損失で高速なスイッチングが実現できます。
【特長】
今回開発したインバータICは安価で大口径化が容易なSi基板上において、当社独自のノーマリオフ[4]型パワートランジスタであるGIT[5]を集積化したものであり、以下の特長を有しています。
- 横型で低損失なGaNトランジスタを採用
・オン抵抗[6] 2.0mΩcm2、オフ耐圧[7] 700V
- 独立駆動可能なGaNトランジスタを集積化し、高効率モータ駆動を実現
・インバータ変換損失を42%低減
(20W出力時 変換損失4.8%、従来のIGBT[8]は 8.3%)
- 基板材料コスト低減 (参考:SiC基板と比較して 1/100 以下)
【内容】
本開発は以下の新規技術開発により実現しました。
- 低オン抵抗かつ高耐圧を有する横型GITトランジスタ技術
開発したノーマリオフ型GITはオン抵抗が小さく高速スイッチングが可能であり、これにより、モータ駆動時のオン動作時およびスイッチング時の損失を大幅に低減しました。
- イオン注入[9]による素子分離技術
安定に高抵抗を維持できる鉄(Fe)イオン注入により素子間耐圧900Vを実現しました。これにより、集積化したGaNトランジスタを独立に駆動することが可能となりました。
- Si基板上へのGaN結晶成長技術
GaNとSi基板の格子定数および熱膨張係数の不整合を緩和できる有機金属気相成長(MOCVD)[10]技術の開発により、大口径Si基板上に高品質かつクラックフリーのGaN結晶を形成することに成功しました。
【従来例】
従来は、Si系 IGBTを複数個用いインバータ回路を構成していました。IGBTでは、ある電圧まで電流が流れないというオフセット電圧が存在するために高効率化に限界がありました。
【特許】
国内 141件、外国 90件(出願中含む)
【備考】
本開発は、2009年12月7日〜9日に米国ボルチモアで開催のIEDM2009 学会で発表予定です。この成果は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の共同研究業務の結果得られたものです。
【照会先】
セミコンダクター社 企画グループ 広報チーム
TEL:075-951-8151 E-mail:semiconpress@ml.jp.panasonic.com
【特長の説明】
- 横型で低損失なGaNトランジスタを採用
GaNは従来のSi系パワーデバイスと異なり、横型であることが大きな特長です。GaNの絶縁破壊強度が大きいという特性により、電極間距離を短くしても高耐圧が維持でき、同時にオン抵抗を小さくすることが可能です。横型で集積化に適しており、トランジスタ6個のみでインバータ回路を構成しました。また本開発においては当社独自のGIT構造を採用し、機器の安全性確保のために要求されるノーマリオフ動作と小さなオン抵抗を同時に実現しました。
- 独立駆動可能なGaNトランジスタを集積化し、高効率モータ駆動を実現
横型であるGaNトランジスタは高抵抗GaN下地層の上に形成されているため、集積化したそれぞれのGaNトランジスタ間で十分な素子間分離耐圧を維持できれば独立して駆動することが可能となります。本開発のインバータでは鉄(Fe)イオンによる素子分離技術を採用することで、900Vという高い素子間耐圧を実現しました。これにより6個のトランジスタが独立に駆動できるインバータICの動作が可能となりました。ここでは、従来のIGBTのようにオフセット電圧が生じず、オン抵抗による損失を低減すると共に、集積化により寄生インダクタンス[11]を低減でき高速スイッチングが可能となります。この結果、オン動作時およびスイッチング時の損失を低減でき、高効率なモータ駆動が可能となりました。
- 基板材料コスト低減
GaNの結晶成長に用いる基板としてSiを用いました。従来用いられてきたSiCやサファイア基板と比較し大口径基板が安価で入手可能であるため、基板材料コストを大幅に低減できます。
【内容の説明】
- 低オン抵抗かつ高耐圧を有する横型GITトランジスタ技術
当社では、パワースイッチング応用において機器の安全性の観点から強く求められるノーマリオフ特性について、独自のGIT構造により実現しました。同トランジスタ構造はオン抵抗2.0mΩcm2、オフ耐圧700Vと優れた特性を有しています。信頼性試験においても経時変化のないことが確認できており、これにより長時間の安定したモータ駆動が実現できました。
- イオン注入による素子分離技術
インバータICに集積化された複数のトランジスタ間を高耐圧で電気的に分離するために、イオン注入によるGaNの高抵抗化技術を開発しました。GaNトランジスタの製造工程においては、例えば、800℃以上の高温工程が含まれる場合があり、素子間耐圧を高温工程後に維持することが強く求められています。今回、熱的安定性の高いイオンとして鉄(Fe)イオンを注入することで、800℃以上の高温工程後においても900Vという高い素子間耐圧を実現しました。
- Si基板上へのGaN結晶成長技術
SiとGaNでは原子の間隔が異なり、また結晶成長前後での熱膨張の度合いが異なるために、Si上のGaN結晶では膜中にクラックが発生することが課題でした。本開発では新たに多層構造を有する下地層を導入することで上記の不整合を緩和し、最大6インチ径という大口径Si基板上にてクラックフリーの結晶成長を実現しました。
【用語の説明】
- [1] パワーデバイス
- 大電力を制御するためのオン状態(導通状態)と、オフ状態(遮断状態)を実現するスイッチとしての働きをするトランジスタのことで、オン状態では大電流が流れるため、低いオン抵抗が必要となります。一方、オフ状態では、高電圧が印加されるため高い耐圧が必要となります。
- [2] 窒化ガリウム(GaN)
- 周期表の3族に属するガリウム(Ga)と窒素(N)の化合物で、電気的にはバンドギャップ(半導体中で電子の存在し得ないエネルギー範囲)の大きい半導体です。一般にこのバンドギャップが大きな材料ほど電気的な耐圧は高いといわれています。
- [3] インバータ
- 直流の電圧や電流を交流に変換する電気回路で、モータ出力の可変用途などに用いられており民生機器の省エネルギー化を実現するコア技術の一つです。トランジスタをスイッチングすることでモータを駆動させることができます。インバータへの入力電力に対する損失電力(入力電力と出力電力の差)の割合が変換損失であり、これが低いほど高効率動作になります。
- [4] ノーマリオフ
- ゲートに電圧を印加していない時に、ソース・ドレイン間に電流が流れないトランジスタの特性です。制御回路の故障時にもソース・ドレイン間を短絡させることがなく、機器の安全性を確保するために必要な特性です。
- [5] GIT(Gate Injection Transistor)
- 当社が独自に開発したノーマリオフ型のGaNトランジスタです。正孔注入時に、ドレイン電流が増加することを利用した新しい動作原理で低オン抵抗とノーマリオフを両立することができます。
- [6] オン抵抗
- トランジスタをオン状態(導通状態)にした場合の、ソース電極・ドレイン電極間抵抗のことです。
パワートランジスタの損失特性を決定付ける重要な特性の1つです。
- [7] オフ耐圧
- オフ動作時においてソース電極・ドレイン電極間に電圧を印加した場合に、耐えうる最大電圧のことです。窒化ガリウム系材料はバンドギャップが大きいことからシリコン(Si)と比較して、耐圧が高いという特長があります。
- [8] IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)
- 入力部のMOSFET(金属 - 絶縁膜 - 半導体 電界効果トランジスタ)と出力部のバイポーラトランジスタを組み合わせてワンチップにしたSi系トランジスタです。MOSFETと比較して大電力を取り扱うことが可能です。
- [9] イオン注入
- 物質のイオンを固体に注入する方法です。不純物をイオン化してビームにし、電気的に制御しながら注入するので、添加量やその分布を変えることができます。
- [10] 有機金属気相成長(MOCVD : Metal Organic Chemical Vapor Deposition)
- 有機金属原料をガス化して供給することにより結晶を成長させる方法で、GaNの結晶成長方法として最も代表的なものです。3族原料に有機金属を、5族原料にアンモニアを使用します。供給された原料ガスが加熱された基板上で、分解・化学反応を起こすことで結晶成長が行われます。
- [11] 寄生インダクタンス
- 回路基板上の配線部分やチップとパッケージを接続するワイヤでのインダクタンスを指します。これが大きい場合には誘導起電流が短時間流れてしまうため、スイッチング時の電流が大きく変動してしまいます。寄生インダクタンスが大きい場合には、スイッチングを遅くしてこの影響を低減する必要があります。
以上
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