くまもと子どもの人権テーブル
砂川真澄(すなかわ ますみ)さん、入江里美(いりえ さとみ)さん
- 事業名:
- 子どもへの暴力被害予防プログラムの開発とボランティア育成事業
- 申請の目的:
- 子どもを取り巻く環境の多様化に応じ、子どもの暴力被害解決にさらに寄与するために、新たに開発した複数のプログラムの試験的実施と評価、改善を行う。また、そのプログラムを実施するための人材育成講座を開催する。
- 助成実施期間:
- 2007年1月1日〜2007年12月31日
- 助成額:
- 1,140,000円(事業総費用:1,304,342円)
- 助成で行った取り組み:
- 「おとなと子どもが共に学ぶ被害予防セミナー(以下、被害予防セミナー)」および「いじめ防止セミナー」パイロット事業によりプログラムの有効性を調査し、開発・修正作業を完了。
- 活動スタッフ研修事業による人材育成。

くまもと子どもの人権テーブルは、1989年に子どもの人権や国連の「子どもの権利条約」に関する学習会として始まりました。その後、アメリカで開発された「子どもへの暴力防止プログラム(以下CAPプログラム)」にもいち早く取り組んできました。近年は子どもをとりまく社会環境の変化に応じて、オリジナルのプログラム開発にも着手。助成事業では、課題となっていた新しいプログラムの効果測定と実施スタッフの育成を行っています。その経緯と成果を事務局に伺いました。
助成事業の内容と成果
プログラムの実施に必要な道具も制作
CAPプログラムは、子どもへの暴力被害を防ぐプログラムとしてアメリカで作られました。定評あるプログラムですが、ひとつのプログラムにできることには限界があります。そこで、くまもと子どもの人権テーブルでは独自のプログラム開発を考えてきました。「社会環境や多様なニーズに合わせて複数のプログラム提供をしたかったんです」と代表の砂川さん。ともに活動をしている九州・山口の5団体のネットワーク「子どもの人権・安全ステーション」の仲間とも連携し、砂川さんたちが中心となって2000年頃からプログラムの具体化に向け試行錯誤を重ねてきました。しかし、熊本県という立地から県外の研究者と密な連携を取ることが難しく、プログラムの効果測定と最終的な仕上げの作業を進められずにいました。「プログラムを完成させ、提供できるようにするのが今回の助成申請の目的でした。第三者を入れた効果測定にはお金と時間が相応にかかるからです」

助成金によって、これまで助言を得ていた愛媛大学と名古屋市立大学の先生にプログラムの効果測定を依頼。宿泊費や交通費も確保して、実際のワークショップを見ながら調査方法を検討していただきました。「やっと正式にお願いすることができました。熊本に来ていただくのに日帰りは無理。連絡はメールでできても、プログラムの目的や現場をよく理解してもらうことが必要でしたから」。効果測定は「いじめ防止セミナー」と「被害予防セミナー」の2つのプログラムで実施。熊本県内の小中学校全8校の協力を得て、延べ18回のセミナーと26回のアンケート調査を実施してプログラム実施の前後およびプログラム実施の有無による影響効果測定を行い、その結果を研究報告書としてまとめていただきました。測定を厳密に行うために当初の予定よりプログラムやアンケートの実施回数が増え、予想以上の労力はかかりましたが、専門家による学術的な裏付けが取れたことは大きな成果でした。「ただ、私たちにとっては効果測定でプログラムの弱みや改善点が明らかになったことが一番の収穫です。『これで実施できる』という手応えを感じました」と砂川さん。プログラムに対する自信にもなったようです。
「問題解決力アップのための8ステップ」
講座
プログラムの内容を固めると同時に、それを実施する人材の育成がもうひとつの課題でした。「これまでも一般の人たちに向けて年に1回の新人育成講座を開催していましたが、プログラムの実施回数を増やすにはファシリテーションができる経験者が必要なんです」と砂川さんは言います。新プログラムのワークショップは3人のチームで行いますが、当時、スタッフの中でファシリテーションができるのは数名と厳しい状況でした。そこで、助成事業では中級者向けの講座の充実を考えました。
中級講座では、子どもの人権・安全ステーションの仲間でもある臨床心理士、廣岡逸樹さんのプログラム「問題解決力アップのための8ステップ」の学習とあわせて、防止教育についての研修、大人向けセミナーの進め方のノウハウなどを盛り込んで、各自のスキルアップを図ることにしました。また、新人育成講座に関しても、その年は助成金を利用して託児サービスをつけ、受講費用も通常の半額に抑えて、より多くの方に参加していただけるようにしました。
助成事業終了後の波及効果
プログラムの効果測定調査と2つの人材育成講座。予定されていた事業はいずれも無事に終了し、すでに1年が経ちました。助成によって完成したプログラムの実施状況や人材の動向など、その後の展開をさらに伺いました。
いじめ防止セミナーの実践研修
まず、「いじめ防止セミナー」については、一緒に開発を進めた「子どもの人権・安全ステーション」の研修会で報告をしました。そこで調査結果を説明し、現在、プログラム実践に向けた研修や練習を始めているそうです。そして、もうひとつの「被害予防セミナー」は、いじめのプログラムがある程度形になってから追って実践へと進める予定です。「実は、今回の事業の反省として、いっぺんに2つのプログラムの効果測定を行ったことで、スケジュールを非常に厳しくしてしまったことがあるんです。ですから、実施については1つずつ、腰を据えて進めていくことにしました」。さらに、2009年度には、別の助成金を受けてプログラム普及のためのパンフレットや実施のためのテキストも作成する予定です。「最終的には、それを使って一般に向けた講習会を開き、さらにプログラムを広げていきたいと考えています」
設立20周年を迎えた定時総会
一方、人材育成については、新人育成講座は11名、中級編育成講座には延べ57名の受講者が参加。その結果、新しいスタッフを8名確保することができました。しかし、託児つき講座だから参加できたという方も多く、その人たちは自分の育児終了まではプログラムを提供する活動に加わることができません。そこで現在は、将来に期待してほかの作業をお願いしているそうです。また、中級講座では予想外の収穫がありました。「中級講座をきっかけに活動に参加するようになった人がいたんです。会員同士のコミュニケーションの場にもなって、非常に好評でした」と、当時の副代表入江さん。それを機に、初めて会の方向性についての会員アンケート調査を行い、改めて意見交換の場も持ちました。中級講座を隔年で実施して欲しいという声も多く、会員が望んでいることや、今後の方向性など、いろいろな意味で自分たちの活動を見直す機会となったようです。今年は、団体が設立されて20周年、その記念シンポジウムの開催が決まっています。新しいプログラムと熱心な会員たちの声に支えられて、着実に活動は次のステップに向かって歩み出しているようです。
(文:山崎 玲子)
