事務局長 長尾是史(ながおただし)さん
- 事業名:
- 赤野井湾流域の環境情報ネットワーキング事業
- 申請の目的:
- 赤野井湾流域の環境保全を目的とした個々の活動を連携・支援し、さらなる広がりと活性化を目指す
- 助成実施期間:
- 2003年1月1日〜2003年12月31日
- 助成額:
- 870,000円(事業総費用:1,825,000円)
- 助成で行った事業と成果:
- 組織基盤強化のためにHPにGISシステムを導入し、市民による河川環境マップを作成
- 地域情報を共有するネットワーク組織を立ち上げ、まとめとしてフォーラムを開催
- 地域で活動する自治会へのヒアリングを実施し、それを基に自治会HPを作成
- 地域を巻き込んだ水質調査の実施

豊穣の郷赤野井湾流域協議会がNPOサポート ファンドの助成を受けてからすでに5年。その後、平成16年にはNPO法人格を取得して「NPO法人びわこ豊穣の郷」となり、さらに活動の幅を広げています。今回は、当時から団体の事務局長を務める長尾さんと理事長の北田さんに、改めて当時の助成事業による取り組みと成果、そしてその後の経過を伺いました。
助成事業の内容と成果

数ある助成制度のなかからNPOサポート ファンドに申請をした理由は? という問いかけに「組織基盤強化が対象だったからですよ」と、即答した長尾さん。こういう形の助成はほかにはないと言います。「私たちも、いろいろな助成金に助けられてきましたが、単年度の事業に対する助成だと、助成をもらうために事業を計画し、報告書を出すために事業をする、となりがちです。報告書を作るのもひと苦労ですから、本来の活動をつぶしかねないくらい時間も手間もかかる。本当は事業を展開する前に、事務局の強化をすべきなんです。でも、それに使える助成金はなかなかない。団体にある程度の資金と組織基盤ができあがると、運営にも時間と人手が必要となります」。さらに、長尾さんは、この時点で具体的な課題を抱えていました。「活動に地域の市民をもっと巻き込みたかったんです」
豊穣の郷赤野井湾流域協議の設立は1996年。以来、琵琶湖の赤野井湾とその流域の水環境改善に取り組んできました。特に地域のシンボルであった国の天然記念物、ゲンジボタルとシジミ貝の復活を願って、市民による水質調査や生態調査、河川清掃や改修に力を入れています。「しかし、近年、地域に新しく住むようになった方々への呼びかけが上手くできていませんでした。河川の保全には、流域に住む人たちの意識の向上と協力が欠かせません。そこで、この助成を活用して赤野井湾流域の情報を共有するポータルサイトを構築しました」。すでに、ホームページやパンフレットを作って調査データの公開はしてきましたが、もっと市民が主体的に参加できる方法はないかと考えて思いついたのがGIS(地図画像)システム。これを使えば、自分たちでデータを地図上に書き込めます。こうして「水質調査マップ」「市民によるほたるマップ」を作成しました。「時系列でデータが閲覧できるようになり、更新もリアルタイムにできるので参加者の満足感も高まりました」
- 市民によるほたるマップ http://www.lake-biwa.net/akanoi/hotarumap/index.html
- 水質調査マップ http://www.lake-biwa.net/akanoi/map/




加えて、地域情報ネットワークを立ち上げ、話し合いの場を設けました。助成金でコンサルタントも導入しました。「助成や外部事業を受ける際の細かい文書作りや報告書のまとめ方も助言をいただき、これ以降助成金の申請も増えました。また、活動に地域を巻き込むなら、子どもが来れば保護者や学校も関わりやすいとアドバイスがあり、結果として今では『水辺の楽校』もメイン事業のひとつとなっています。コンサルの人は会員でもありますが、仕事として関わってもらうことで大きな成果がありました」。ネットワークは自治会や行政、企業や学生にも協力を呼びかけたため、調整には非常に苦労をしましたが、発足後は定期的に会議も開き活動を続けています。
「併せて、学生たちと一緒に3つの自治体を訪ねて話を聞き、その結果をまとめてホームページを作りました。それが『びわこ川づくりネット』です。現在、守山市の自治会の約9割にあたる63自治体が私たちの会員ですが、当時は上手く連携がとれていなかったんです。このホームページは大好評で、『私たちの故郷が全国に広がるなんて』と感激してくださる方や、自分たちで更新を続ける自治会も現れました」。また、地域ネットワーク化事業の総まとめとして、2004年の2月には「川づくりフォーラム」を開催。協議会会員、自治会、青年会議所、学生など、さまざまな立場の市民が総勢86名も集まり、大盛況に終わりました。当初は、さらにヒアリングや話し合いをして、その結果をまとめた「ローカル水ビジョン」も作成の予定でしたが、残念ながらそれは達成できませんでした。「身近な河川の事は考えられても、そこから赤野井湾へ、さらに琵琶湖へと意識を広げていくことは、なかなか難しいと実感しました。これは、今後の課題ですね」
- びわこ川づくりネット http://www.lake-biwa.net/RiverNet/
助成事業終了後の波及効果


組織基盤強化の事業では、何よりもその後の波及的な効果も重要です。地域住民の参加や事務局体制の強化は即座に結果の出るものではありません。助成から5年、その効果はどうだったのでしょうか。
「まず、フォーラムの成果として人脈や信用がずいぶん深まりました」と長尾さん。助成をきっかけに、環境省や国土交通省からの委託事業も増え、活動規模も大きくなっています。
GISマップも大きく育ちました。「県から琵琶湖全体に活動を広げていこうという提案を受けて、現在は滋賀県琵琶湖環境科学研究センターにデータベースを置いて、私たち以外の団体も同じマップ上にデータを更新できるようになりました」
「びわこ川づくりネット」も好評で、3自治体から始まったホームページも現在は6つの自治体で開設され、個々に運営されています。豊穣の郷本体のホームページアクセス数も、当時は月に600くらいだったのが、いまでは1500アクセスまで伸び、多くの人が利用しています。
一方で、課題もあります。「会員は年配の人が多い。しかし、調査データをGISで更新するにはパソコンの知識がいるし、そもそも地図を読むのが苦手な方もいます。会員や市民向けのパソコン講習は以前より力を入れていますが、まだ万全とは言えません」。また、活動が広がり参加者が増えたことで、それに対応できるスタッフの確保と人材の育成も課題です。昔は一線で頑張っていた人たちも次第に活動に顔を出さなくなってきています。次世代を担う人材確保を考える段階になりました。

最後に、今後の活動について伺ってみました。「やはり、任意団体からNPO法人になったことでいろいろなことが変わりました。活動の内容も、行事から事業へ、補助から委託へと変化し、法人としての責任が問われるようになってきます。当然、意識変革も必要ですが、難しいですね。事業規模が大きくなれば資金も必要だし効率も責任も求められますが、個々の活動に満足している方からは『ボランティアで一生懸命やっているんだから、いいじゃないか』と言う意見もある。どの活動にも非常に献身的に頑張っている方々がいて、単純な評価で活動を縮小することもできませんし、そもそも、その活動が地域保全にどれだけ貢献したかなんていう評価は、簡単にはできませんからね。一方で、これまでの活動で蓄積してきたデータをまとめたことで、流域の状況がかなり細かく分かってきました。これは貴重な財産です。行政への提案などに有効に活かしていきたいですね」
さまざまな課題を抱えながらも、長尾さんの夢はとどまることを知りません。今後は、赤野井湾に軸足をおきながら琵琶湖から世界へと視野や活動を広げていきたい、と熱く語ってくださいました。
(文:山崎 玲子)
